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『弱法師』 中山 可穂

評価:
中山 可穂
文藝春秋
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(2004-02-26)

からだの芯の、そのまた奥まで痺れるようだった。
鳥肌がたち、涙があふれ、心臓は凍てつくようにガクガク鳴った。
読み終えてしばらく呆然と私の心は立ちつくした。まるで、魂を抜かれたかのように。

『弱法師(よろぼし)』、『卒塔婆(そとば)小町』、『浮舟』。
3つのお話は、すべて能の演目がモチーフにされたもの。能そのものが直接物語にからんでくることはないのだけれど、タブーを秘めた愛の姿が能の世界の妖しさに重なって、どれも独特の雰囲気をかもし出すことに成功しています。
なかでも私の心がいちばん震えたのは、『浮舟』でした。

『浮舟』
鎌倉に代々伝わる和菓子屋の老舗。父母と17歳の娘・碧生(みどりお)の暮らす家に、しばらくぶりに叔母(父の姉)・薫子が帰ってきた。
薫子は宝塚の男役がにあいそうな長身と美貌の持ち主で、しかし独身を貫き世界を股にかけた仕事をし、ふらりと突然帰ってきてはまたすぐに旅立ってしまう寅さんのような人。
ずっと以前、和菓子屋を継いだ父と病弱の母、そして薫子と碧生の4人で暮らした期間があり、碧生はその頃の「家」が一番好きだった。けれどやさしい愛につつまれた団欒にひそむ狂気の気配を、幼い碧生は漠然と感じとってもいた。
やがて母の死を機に、長い長い時を経て父の口から明かされた驚くべき過去。そこで碧生は幼い頃に感じたあの感覚の真実を知ることになる――。
できることなら、こんなふうにぼろぼろになっても、胸がぺしゃんこに潰れるような思いをしても、年を取りすぎた大きい天使になっても、狂ったように愛して愛され、いとしい誰かと手に手をとってこの世の淵からこぼれ落ちたい。打ちのめされ、追い詰められ、虚無に向かって行進していくような恋でもかまわない。こんなふうに誰かを、ただひとりのひとを、一生かけて、馬鹿みたいに愛したい。

濃やかで激しくて、危険なくらい純粋で、‘恋する’というよりも‘焦がれる’という言葉がハマる。そんななかに臆面もなく身を投じてしまえる人びと。
孤独と闘い、憔悴し、限界をこえ、行き場をなくしても、止まらぬ想い。
――叶わぬ恋。
それゆえの美しさを、男とか女とかモラルとか、あらゆる枠という枠をとりはらって描き出した渾身の中篇集です。
Author: ことり
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