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『無名』 沢木 耕太郎

評価:
沢木 耕太郎
幻冬舎
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(2003-09)

一日一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。そんな父が、夏の終わりに脳の出血により入院した。混濁してゆく意識、肺炎の併発、その後在宅看護に切り替えたのはもう秋も深まる頃だった。秋の静けさの中に消えてゆこうとする父。無数の記憶によって甦らせようとする私。父と過ごした最後の日々・・・。
自らの父の死を正面から見据えた、沢木文学の到達点。

私たちは、‘父’という人のことを、いったいどれほど知っているのでしょう。
そんなことを考えずにはいられないエッセイでした。

自分をどんな時も自由にしてくれた父。教養が高く、いつも正座をして読書をする父。58歳から俳句を始め、89歳までの間に数多くの句を詠んだ父。そんな父が死んでいく・・・沢木さんはうろたえます。避けられない現実を前に。父が死ぬということのあまりの実感のなさに・・・。
父がのこした俳句のなかにいままで知らなかった姿を見出し、父の原点に、また自らの原点に立ち帰ろうとする沢木さん。そして彼は父の死後、句集を編纂し、「父のような生き方こそ真の無頼と言うのではないか」と思い至るのです。
父には、何を訊いてもわからないということがなかった。この人といつか対等にしゃべることのできる日がやってくるのだろうか。そう思うと絶望的になることがあった。
沢木さんがどこかで畏れを感じ続けていたほどの人物でありながら、世俗的な成功や、自己顕示欲とはまったく無縁だった父の「無名の生涯」。その静かだけれど凛とした美しさに打たれつつ、離れて暮らす私自身の父のことを思いました。

差し引けば 仕合はせ残る 年の暮
Author: ことり
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