<< 『ドミノ』 恩田 陸*prev
『センセイの鞄』 川上 弘美 >>*next
 

『明日の記憶』 荻原 浩

評価:
荻原 浩
光文社
¥ 1,575
(2004-10-20)

知っているはずの言葉がとっさに出てこない。物忘れ、頭痛、不眠、目眩――告げられた病名は若年性アルツハイマー。どんなにメモでポケットを膨らませても確実に失われていく記憶。そして悲しくもほのかな光が見える感動の結末。上質のユーモア感覚を持つ著者が、シリアスなテーマに挑んだ最高傑作。

主人公は、広告代理店で部長を務める働きざかりのサラリーマン・佐伯。50歳。
物忘れがひどくなり、訪れた病院で彼は「若年性アルツハイマー」と告知されてしまいます。大切な記憶が剥がれ落ちてゆくのを止められない歯がゆさ、忍びよる自己崩壊の恐怖を一人称で語っていくなかで、佐伯が病を自分の現実として受け入れてゆくさまが描かれていきます。
記憶だけでなく、理性、やがては人格までも奪われてしまうかもしれない・・・そのおそろしさは、とうてい計り知れないもの。周囲の理解も十分に得られないまま退社を余儀なくされた佐伯は、ただ祈りつづけます。
「来年の正月も、こうして自分が自分であるままむかえられますように」
けれど佐伯の祈りもむなしく、アルツハイマーは容赦なく進行していくのです。

記憶は、今まで生きることで積み上げてきた大切な財産で、いわばその人生の証。人格の源とさえいえるかもしれません。
では、もしも記憶をうしなってしまったら、その人はその人でなくなってしまうの?
このお話は、いやおうなしにそんな問いを投げかけてきます。
だけど、そんなこと、きっとないですよね。
綺麗事かもしれないし、現実はもっと残酷なんだって頭ではわかるけど、でも記憶というのはそれほど単純なものでもないはず。そんなふうに信じたい。たとえ記憶をなくしても、いっしょに生きてきた人たちのなかに、そのひとの人生は残っていく。
記憶はけっして、その人だけのものじゃない、って。

身近な、大切な人の記憶がもしも消えてしまいそうになったら、
「あなたが忘れてしまっても、私がおぼえてるよ」
こう言ってあげられる私でいたいと思いました。それはもしかしたら、私の記憶が消えかけたとき、誰かにかけてもらいたい言葉なのかもしれません。
Author: ことり
国内あ行(荻原 浩) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -