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『つめたいよるに』〔再読〕 江國 香織

夢のようにふしぎなお話を9つ集めた『つめたいよるに』。
なにかしらの食べものが出てくるお話を12こ集めた『温かなお皿』。
この本には、珠玉の短編集がふたつ収められています。

どれもほんとうに短いお話ばかり。だけど私にはこの本をいっきに読みあげることなどできません。ひとつ読み終えたら、余韻にしばらく目をとじる。そして、そのひとつをていねいにかみ締める。そんなふうにして、この一冊を味わっています。
一ばん好きなお話は、『デューク』。いつもいつも、私の頬が涙でぐしょぬれになってしまう、たった8ページのお話です。

『デューク』
「私」は、泣いていた。愛犬・デュークが死んでしまった。
電車の中でも「びょおびょお」ひっきりなしにしゃくりあげていた。
デュークはキスがうまくて、すねた横顔はジェームスディーンに似ていた。
「どうぞ」と席をゆずってくれた男の子。彼と一日を過ごす「私」。
そして別れ際、彼は――・・・

白昼夢も、ふしぎな体験も、せつないなつかしさのなかに描きだして、「いつか、こんなこともあったでしょう?」ともの柔らかに語りかけてくれる本。
遠い過去のなかに置き去りにしてきた‘私自身の風景’を、頁のすきまに大事に保管してもらっているみたいで、ひらくたびにかつて持っていたはずの自由な心がふたたび戻ってきそうな気がします。
いつのまにか心にたくさんついてしまったものをそぎ取った時、その時に表れるものに出会いたい。
Author: ことり
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