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『神様のボート』 江國 香織

評価:
江國 香織
新潮社
¥ 1,540
(1999-07)

私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの。
――神様のボートにのってしまったから。

琥珀色のシシリアンキス、きれいな背骨、バッハの音楽・・・
おとなのおとぎ話みたい、そう思いました。
「骨ごと溶けるような恋」をした相手――かならず戻るといって消えたあのひとを待ちわびて、町から町へ母娘は引越しをくり返す。
約束と思い出に溺れたままの母の葉子と、日々成長していく娘の草子。そのコントラストがくっきりと鮮やかにうかび上がったお話に、江國香織さんのなかには我儘なおとなの女性とかしこい小さな女の子がきっといっしょに棲んでいる・・・確信にちかい思いでそんなことを思ってしまう私です。

めぐる季節、ふたりで歩く散歩道。
なじむことのない生活はどこかもの哀しくて、帰ることのない町の記憶は夢のように淡く遠のく。やさしく凪いだ母娘の世界はやがて不穏に軋みはじめます。
こんなにもお互いを愛しているのに。‘海に出るつもりじゃなかった’のに。
――ごめんなさい。ママの世界にずっと住んでいられなくて。

一度出会ったら、人は人をうしなわない。
「箱のなか」に入ってしまった過去は絶対に変わらないし、絶対になくさない。
狂おしいほど一途にあのひとを想う葉子ですが、その愛は夜の海のような静けさにぽっかりと沈んでいます。
はてしない時間をゆらめきながら、たったひとりの人を待ちつづけた危うい放浪の物語。この倒れそうに甘いラストは信じていいの? それとも――・・・
Author: ことり
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