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『死亡推定時刻』 朔 立木

評価:
朔 立木
光文社
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(2004-07-21)

この作品を、フィクションと呼ぶのだろうか。作者としては、ドキュメントあるいはリポートと呼びたい気持ちがある。全体の筋書きは架空のものだが作品を構成する膨大な細部のほとんどは、実際にどこかに存在したものだからだ。
あとがきで、作者(曹資格者)自身がこんなふうに語るこのお話は、いまの日本の刑事訴訟の実態に向けて鳴らされた警鐘なのかもしれません。

あこぎなやり口で莫大な財をなした山梨県の富豪・渡辺恒蔵が溺愛する一人娘・美加が誘拐された。警察は犯人逮捕を優先し、身代金を投下しろという犯人の要求を無視。翌日、美加は遺体で発見される。警察はミスを隠蔽しようと(県警本部長は恒蔵と癒着。美加の死亡が身代金受け渡し失敗の後だと発覚すれば恒蔵に汚職を公にされかねない)、あの手この手で死亡推定時刻を偽装する。
いっぽう、美加の死体の第一発見者で前科者の小林昭二は、美加のカバンから現金をうばい逃走したため、指紋が検出され殺人犯として逮捕される。小林は無罪にもかかわらず、警察の強力な取調べで虚偽の自白をさせられてしまう。
一審の弁護士は小林を弁護せず判決は死刑。控訴審で国選弁護人となった川井は、小林の事件を最初から調べ上げていくうちに冤罪であると確信する。冤罪の証拠を提出しようとする川井弁護士にたいし、裁判所はさまざまな障害をしかけ、なんとか一審判決を維持しようとして・・・。

2004年刊行と知って、いままで手にしなかった自分を悔やんでしまう・・・それくらい私にはただただ衝撃だった一冊。
じっさいの刑事事件をいくつも扱ってきた朔さんだからこそ書けたでしょうこのお話、ほんとうにあったことを繋ぎあわせたというストーリーに(登場する刑事・検事・弁護士もこのような人間が実在するそうです)、私は驚愕し、怒り、落胆し、うち震えました。そして私のなかの正義感が最高潮にうずいた後で、あとがきのこんな文章が私を愕然とさせたのです。
この作品は逮捕された青年が冤罪であることを読者に見せたうえで進行する。読者は読了後、高裁の判決から出発して事件を見る実験をしてほしい。小林昭二が金を盗んだだけだと知らされていなかったら、前科が三つもあり、カバンに指紋があり、自白もしている被告人が「自白は強要されました」などと言っても、死刑を逃れたいだけだと思う人は多いのではないだろうか。
真実は、ものごとを見る角度によっていとも簡単にねじ曲げられてしまう・・・。私だって、冤罪者をつくる目を持っている・・・。
さまざまなことを考えさせられたこの本、読むことができてほんとうによかったです。
Author: ことり
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