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『去年の雪』 江國 香織

評価:
江國 香織
KADOKAWA
¥ 1,760
(2020-02-28)

この本を読んでいる時、あなたはひとりじゃない。
100人を超える登場人物の日常が、自由自在に時空を往還する――
降り積もっては消えゆく、あなたの、そして誰かのお話。

夥しい数の人生が織りなす儚くはるかな群像劇。
私のすぐそばで時空がゆがみ、そのつど置き去りにされてゆくかのような。
とつぜんの平安絵巻、とつぜんの風変りな少女。ふしぎの国につうじるウサギ穴が、いくつもいくつも、そこかしこにあいているようなそんな本。

座席からキャラメルの箱が現れ、コーポ・エリゼには辿り着かない。
いたずらに時を超えるアイスの棒、マニキュアの小瓶、けしゴム、アーミーグリーン(海松色)の腕時計。
いくつもの時代の日常の端々が、ひそやかにかさなり合って混線します。そしていつの世も人びとの胸のうちは、生々しくきらめいては澱む。もののけもSNSも、筝の音色も祈祷も、妻の乳房も出張の帰り道も・・・孤独で心細く、ちゃんと体温のある匂いがする物語の断片たち。

竹林の葉ずれの風が遠い声をはこんでくる。しゃぼん玉(吹きたま)が青い空に消える。夕闇を狂暴なカラスが滑空してくる――

いくら探してもみつからない宝物はどこへすいこまれたの?
昔の音楽家がいま生きていたら、どんな曲をくちずさむの?
角をまがるまでの見慣れない道はほんとうに‘ここ’だったの?
そんなことをついぼんやりと考えてしまいがちな私にはなんだか思いあたる小説で。
死の瞬間も死後の世界も、ひとつの変化、うつろいとしてそれはそこにあって。
何も変っていないはずなのに、何一つ以前とおなじではない。
知らず知らずまぎれ込む白昼夢。すべては、まぼろし――?
ふと鈍色の雲をみあげる。一瞬、沈丁花の香りが金木犀のそれにすり替わったのは私の気のせいなのでしょうか・・・。
いまは不在、だけどおなじ時空にいる(はずの)夫が恋しくなった春の夕暮れです。
Author: ことり
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