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『細雪』〔再読〕 谷崎 潤一郎

評価:
谷崎 潤一郎
中央公論新社
¥ 1,205
(1983-01-10)

吐く息がしろく染まり、新年の寿ぎをふくんだ空気がきゅんと頬をさして。
お正月にきまってこの本を手にするようになって、4年が経ちました。

栄華をきわめたのもいまは昔、没落しつつある船場の商家の四姉妹(鶴子、幸子、雪子、妙子)の人生のありようが絢爛に縷々として描きだされる物語です。
はにかみやで気位が高く、あえかに美しい三女の雪子。彼女のなかなか纏まらない縁談ばなしを軸に、こまごましい姉妹たちのおんな心理を谷崎さんはふっくりと花やかに描いてみせる。

キュウキュウ鳴る帯、猫みたいな鼾、姉妹で足の爪を切りあう畳の間。
とりどりのお着物のように織られてゆく日々は、とりとめのない笑いや会話も、たいせつな人の呆気ない死も、いまは手の届かない箱のなか。時はうつろうもの、永遠に可憐な少女のままではいられない・・・。
幾筋とない線を引いて両側から入り乱れつつ点滅していた、幽鬼めいた蛍の火は、今も夢の中にまで尾を曳いているようで、目をつぶってもありありと見える。
阪神間のなつかしい風景が脳裡に立ち上り、たおやかな上方言葉にやはり祖母を思い出す・・・ここ数年のうちに妹が結婚し、祖母を亡くし、娘が小学生になった私はいつしか夕暮れのかえり道のような心地になっていました。はらはらと雪片をふらせる桜花の雲、夢幻のような蛍狩りの闇夜。つづいていくいまこの時と幸福な記憶・・・読み込むごとに少しずつその色をかえる、心愉しくやがてせつない物語。
甘やかな斜陽。時局の翳りと列車の汽笛、おっとりと上品で花のような姉妹たちのおもかげ。なぜかしら茫として、こんなにも儚い。

(高校時代より新潮文庫版で愛読してきましたが、こちらの中公文庫版は世相をうつしたすばらしい挿絵が随所にあって素敵です。本棚にしまうたび、この背表紙のむこうに閉じ込められた姉妹たちを想いじんわりとした気持ちになる私です)
Author: ことり
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