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『掃除婦のための手引き書』 ルシア・ベルリン、(訳)岸本 佐知子

毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための手引き書」)。夜明けにふるえる足で酒を買いに行くアルコール依存症のシングルマザー(「どうにもならない」)。刑務所で囚人たちに創作を教える女性教師(「さあ土曜日だ」)。
自身の人生に根ざして紡ぎ出された奇跡の文学。死後十年を経て「再発見」された作家のはじめての邦訳作品集。

心をぎゅっと掴んで揺さぶられ、引きこまれては解き放たれる24の物語。
感電しそうに赤裸々で、感覚的にうそがない文章――どことなくジャニス・ジョプリンの歌声を思わせる哀しさと逞しさ。

ターはバークレーのゴミ捨て場に似ていた。あのゴミ捨て場に行くバスがあればいいのに。ニューメキシコが恋しくなると、二人でよくあそこに行った。殺風景で吹きっさらしで、カモメが砂漠のヨタカみたいに舞っている。どっちを向いても、上を見ても、空がある。ゴミのトラックがもうもうと土埃をあげてごとごと過ぎる。灰色の恐竜だ。

知的なのにはすっぱで、尖っているのにやさしくて、語り手たちの一人一人がまるで孤独で怖がりなはりねずみみたいで泣きたくなります。みじかいセンテンスがふしぎなくらい沁みてきて、胸がドキドキする。煙草と香水、薬と経血とアルコール。乾いた土埃、サンゴ色の空、コンクリートの病室――甘美な幸せと死の気配。
コインランドリーやバスですれ違うだけの人たちも、暗黒の女学院で出逢ったシスターも、かつて愛した夫たちも・・・ノスタルジーに溺れすぎず寧ろクールに書きつけられ、絶望と親しくさえあるかのよう。
ナイフがひゅんっと唸って芝生に刺さる一人遊び。こんなにも鮮やかな、孤独の音。

みずからの壮絶な人生をしぼり出し、文字にすることで浄化してゆく・・・ある種の凄みを感じます。
あの人は誰ひとり不幸にできなかったと言い放つママ、死をまえにしてもう二度とロバを見られないと言って泣く妹、歪んだ背骨とともに銀のハートが写るレントゲン写真・・・。生々しくて切なくてけだるくて、この痛々しくも詩情あふれる冷ややかな熱にまだもう少しうかされていたいです。

(原題『A Manual for Cleaning Women』)
Author: ことり
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