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『旅ドロップ』 江國 香織

評価:
江國 香織
小学館
¥ 1,540
(2019-07-01)

江國さんの旅の記憶のしずくたち。エッセイ集です。
この夏のイタリアの旅の余韻がなかなか消えない・・・そんな時にひらいた本。

一ばん好きなのは『はみだす空気』でしょうか。
これは江國さんのご自宅の海外チャンネルを聴けるラジオのことが書かれています。融通無碍に部屋じゅうを漂う‘音’・・・夕方の東京に居ながらにして、たとえばニューヨークの朝の空気に満たされてしまう旅さながらの臨場感について。
あと、消えてしまった画廊の話やブエノスアイレスの切ないのら犬たち、お母様の言葉「ああ、よかった、家がまだあって」――帰る家があることの嬉しさへの共感も忘れがたいです。(『過ぎゆくもの』でなんども読んでいる若き日の女二人旅の顛末も。)

7月。私は家族で赴いたローマの街を、暮すように旅してきました。
5泊したホテルの最上階のテラスレストランで、歴史の息づく街並みを見下ろしながらすごした幾つもの朝食の時間。そこで録ってきた音源をここで流せば、あの爽やかで優雅なひととき、朝日にきらめくローマの空気がまたたくまに「はみだして」きます。かろやかに控えめな音楽、食器とカトラリーのこすれる音、うみどりと燕たちの鳴き声・・・。すぐそばで夫が飲むコーヒーの匂いや、くすくすと楽しげな娘の気配までも感じられる気がして、たちまちあの天空のテラスへとつれ戻される。
江國さんの海外ラジオのエッセイを読みながら、そんな自分をかさねていた私です。

旅と本、ってふしぎ。
今回のローマゆきでは、行き帰りの飛行機で『時のかけらたち』を読み、フィレンツェにむかう列車のなかで『冷静と情熱のあいだ』を読みました。ナヴォーナ広場では『すきまのおともだちたち』を片手にレモンのグラニータをたべたし、帰国後『受胎告知』や『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』(アントニオ・タブッキ)をひもといては、美しかったサン・マルコ修道院のフレスコ画をうっとりと思いうかべたりしました。
読書が旅と似ているのは、どちらも日常からつかのま切り離されるから。
切り離された時間はこことは違う時間がながれる。旅と本がかさなると、物語にその土地の空気や記憶がまざり、またべつの物語がうまれる。忘れられなくなる。
帰ってこられた愛しい我が家で、だけど私はいまだにここに‘帰りきれず’ふわふわと夢まじりの現実を生きてる・・・。私だけの旅の記憶のしずくを抱いて。


江國香織さんのトークショウに出かけました。
サイン本です↓ <2019年8月追記>
Author: ことり
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