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『ソロ』 ラーナー・ダスグプタ、(訳)西田 英恵

評価:
ラーナー・ダスグプタ
白水社
¥ 3,996
(2017-12-23)

儚い人生とまばゆい夢。
共産主義体制とその崩壊を目撃し、20世紀ブルガリアを生き抜いた100歳の男の人生と夢。気鋭のインド系英国人作家による傑作長篇!

「うつし世はゆめ」・・・ 「夢のまた夢」・・・
そんな先人たちの言葉がちらちらとうかんでは、消えて。ヴァイオリンの甘くもの哀しい音色がしずかに私の心をふるわせる。
「マグネシウム」「炭素」「バリウム」など実験室のようなタイトルがならぶ第一楽章『人生』と、「イッカク」「魚竜」「ジュゴン」などおとぎ話めいたタイトルがならぶ第二楽章『白昼夢』。ちいさな音符どうしがすこしずつお互いを誘いあい、結ばれてはほどかれて・・・目をつむり、耳をそばだて、ひとりの男の人生の記憶がゆめに溶けてゆくさまを見守るような、濃密な、けれど儚い霧のような物語でした。

父親に、あるいは度重なる紛争に押さえつけられていた孤独なウルリッヒの心が、うしなわれた光と引き換えにあふれ出す――
盲目の老人だから、ままならなかった人生だから、彼のみる夢は色も音もこんなにも自由で華やかでゆるぎないのでしょうか。第二楽章でつむぎ出される夢がたりは、ボリスに潰えた夢を、ビー玉に意味を、燃やされたヴァイオリンに未来を与える。
彼はかつてない情熱を込めて話す。
「人生はある場所である時間に起こる。でもそこから大きくはみ出たものがある。それをしまっておく場所は夢以外にないんじゃないか?」
天涯孤独の彼は、白昼夢を奏でることによってこの世につなぎとめられている気がする・・・それは奇妙でやさしいうたかたの時間。花柄のワンピースに一瞬だけ舞い降りる蝶ちょみたいに。いつかすべてが、消えてしまうからこそ愛しい時間。

(原題『SOLO』)
Author: ことり
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