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『ことばの食卓』 武田 百合子

食べものの色、味、匂い――
それにまつわる情景や感じた思いのひとつひとつをあまさずに、豊かに描きだしたエッセイ集です。
枇杷の実のようにみずみずしくて、ふいに少し乱暴なくらいの素直さで心に切り込んでくる文章。悲しいこともひどいことも――指や唇にのこる艶々した官能さえも、百合子さんという人はなんでもないふうにサラリと書いてしまうから、そのせつなさにいつしか泣きたいような心地になっているのです。

ひょっとしたらあのとき、枇杷を食べていたのだけれど、あの人の指と手も食べてしまったのかな。(『枇杷』)

かざらない気もち。とるにたりない瞬間。だからこそ忘れたくなくて、大切にしたくて。
‘あのとき’の空気をぴかぴかのままとじ込めた、ここにしかない言葉と余韻・・・
私の心は本のなかにすっかり置き去りです。

生温かいお酒の蒸気をふりまいて、売子がやってくる。黒革ジャンパーの兄(あん)ちゃん風のとうさんが「おう」と、めざましい声をあげて呼びとめ、ホットを二つ買い、友達の赤ジャンパーのとうさんに一つ奢った。おでんとうどんとソーセージの匂いに、ウイスキーの匂いが混じる。うしろの席で袋をまわし食べしているポプコーンの匂いも加わる。
サーカスには匂いがあるんだねえ」 テレビや映画では散々見ていたが、ナマのサーカスを見物するのは、よく考えてみると生れてはじめてなのだ、と娘が言う。(『後楽園元旦』)
Author: ことり
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