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『ちょうちんそで』 江國 香織

評価:
江國 香織
新潮社
¥ 1,365
(2013-01-31)

いい匂い。あの街の夕方の匂い――
人生の黄昏時を迎え、一人で暮らす雛子の元を訪れる様々な人々。息子たちと幸福な家族、怪しげな隣室の男と友人たち、そして誰よりも言葉を交わすある大切な人。人々の秘密が解かれる時、雛子の謎も解かれてゆく。人と人との関わりの不思議さ、切なさと歓びを芳しく描き上げる長編。記憶と愛を巡る物語。

しずかに、しずかに、すこしずつ露わにされながらつながってゆく登場人物たち。
ピアノの置かれた部屋で「架空の妹」と愉しげに会話する雛子はひんやりと危うくて、その姿はどこか、「絶望」と親しい『ウエハースの椅子』の主人公を思わせる。
父さんと母さんの記憶、いっしょにうたったたくさんの童謡や‘あの本屋’で買ったたくさんの本――とめどなくあふれる姉妹の親密な思い出。
すてきな少女時代に囚われて生きる雛子の平穏な日々に、ぽつりぽつりとスキャンダラスな過去たちが顔をのぞかせます。ふんわり落ち着いた雰囲気をまとった人たちの、思いもよらないいびつな過去が・・・。

疎遠になった家族や友達、つかず離れずの隣人とのおつき合い。孤独な人びとがよりそって奏でるびみょうな人間関係がこまやかに描かれています。
でもこのお話を読んで立ちのぼってくるのは、幸福な過去を思うときの、心がとろりと温かくなるあのはかない愛おしさ。
六番街の夕方の匂い。ミルク紅茶がしみこんだビスケットのしっとりと甘い香り。
Author: ことり
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