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『ロリータ』 ウラジーミル・ナボコフ、(訳)若島 正

評価:
ウラジーミル ナボコフ
新潮社
¥ 935
(2006-10-30)

ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。ロ・リー・タ。舌の先が口蓋を三歩下がって、三歩めにそっと歯を叩く。ロ。リー。タ。

語り手は、パリ生まれで裕福な家庭にそだった教養人のハンバート・ハンバート。彼には少年期の狂おしく不器用で悩ましい恋の相手アナベル・リーを喪った後遺症で、こまった性癖が芽生える。
それは9歳から14歳の少女、中でも特別な魅力を放つ小悪魔的な乙女「ニンフェット」にどうしようもなく惹かれてしまうというもの。
アメリカのニューイングランドに部屋を探す彼は、ヘイズ夫人の下宿を見に行き、そこでついに理想のニンフェットに出逢う。アナベルが転生したかのような12歳の少女ドロレス・ヘイズ――「我がロリータ」に。

物語は、拘留中に書かれたハンバートの手記、というカタチですすんでいきます。
随所にフランス語や古典文学からの引用が顔をだす、博識で流麗な文章。その本質はおぞましい性癖をもった中年男のどこまでもひとりよがりな独白なのに・・・。
そう。ハンバートの目線はやたら妄想めいていて、滑稽なほど美しくまとめ上げられているのです。こんなふうに大げさに形容されると、ロリータの実像がこれほど魅力的な少女だったのかどうかさえ怪しくなってしまうほど。

「ロリータ・コンプレックス」という言葉の語源にもなった有名なお話。
訳者あとがきにもあるとおり、多様な読み方ができそうですが、私はやはり先入観もあってか淫らな――時に可笑しな――少女偏愛小説として読み進めました。
熱にうかされたように綴られてゆく、ロリータへの異様な執着。愛しすぎるあまり、みずからの背徳的行為を正当化してしまう幼稚さと哀しい狂気。
小難しい上に、語り手にたいする嫌悪感もぬぐえないけれど、めまぐるしく変化するけだるい風景のなかに、一人の人間のグロテスクな内面が気味が悪いほど容赦なく描き出されています。

高い崖からその音楽的な震動に耳を傾け、控えめなつぶやき声を背景にして個々の叫び声が燦めくのに耳を傾けていると、私にはようやくわかった、絶望的なまでに痛ましいのは、私のそばにロリータがいないことではなく、彼女の声がその和音に加わっていないことなのだと。

(原題『LOLITA』)
Author: ことり
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