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『黒雲の下で卵をあたためる』 小池 昌代

ギュンター・グラスの詩に出てきた風景について綴った表題作など、詩人の豊かな感性がひしひしと感じられて心地よい、しずかな抒情にみちたエッセイを収める。
『図書』連載「言葉が広げる風景」に書き下ろしを加え単行本化。

年のはじまりにふさわしい、新しい発見と抒情にみちた凛としたエッセイ。
なんという豊かさでしょう・・・。
たとえば、お湯のなかからすくい取ったばかりの白玉だんご。そのつやつやの肌にできたくぼみからみるみるうちに思考は深まり――、
へこむことは退行なのだろうか。負けなのだろうか。(中略)そこに現れた沈黙は、見るもののなかにも、沈黙のくぼみをつくる。自分のなかのへこみを意識すると、そこへ流れ込んでくるものの気配がある。
たとえば、天気のいい冬の午後、一匹の蠅に妨げられた甘美な眠り。ブンというはげしい羽音でもうひとつの意識が目ざめ――、
羽音はむしろ、蠅の存在を気づかせるものなのに、それが同時に、わたし自身を気づかせるものとなった。蠅だ、というのと、わたしだ、というのが、ほとんど同時に、わたしに来た。蠅はわたしだ、というほどに、同時に。

自由に、透明に、どこまでも広がってゆく果てしない思い。
小池さんのするどい感性から生まれた言葉に心を澄ませ、息をのみ、うならされた一冊でした。
Author: ことり
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