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『地図のない道』 須賀 敦子

なんどもなんども胸がぎゅっと熱くなる・・・。
一冊の書物、デベネデッティの『一九四三年、十月十六日』からはじまるエッセイ。

夫に先立たれ、喪失感につつまれたままの須賀さんが訪れた水の都・ヴェネツィア。
リオ(細い水路)に架けられた小さな橋を渡るとよみがえるのは、関西での幼年時代やミラノでのみじかい結婚生活、コルシア書店にいたユダヤ系の友人・・・須賀さんはつぎつぎに回想の翼を広げてゆきます。
ゲットの橋のたもとでほんの少しのあいだ知り合いを待ち――、何年か後にその時のことを思い出し、もしかしたら彼女は・・・と、はっと思い当たる場面がとても印象的。

街じゅうに張りめぐらされた運河のように、物語の底をしずかな哀しみの水がとうとうと流れている一冊でした。
「治る見込みがない人たちの」病院、ヴェネツィア娼婦たちの歴史・・・
併録の『ザッテレの河岸で』は、およそ似つかわしくない謎めいた名をもつひとつの水路に導かれたミステリーのよう。
水の都に深くきざまれた街の記憶は、さまざまな思いをのせた水脈となって、やがて哀しみの果てへと私たちをつれ去ってゆきます。
Author: ことり
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