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『蜜蜂・余生』 中 勘助

「四十年間あなたは蜜蜂のように、家のため働きづめに働いて死んでいった」――半痴半狂の長兄を家長とし、紛糾のたえなかった中家を一身に背負って“家”の犠牲となった兄嫁。孤独でやさしかった兄嫁の晩年をしのぶ随筆「蜜蜂」は、悲しくも美しい詩にみちている。姉妹篇「余生」と併せ一書とした。

在りし日の兄嫁をしのぶ、晩年の日記体随筆です。
中勘助さんは、幼い頃は伯母さんを(『銀の匙』)、大人になってからは兄嫁の末子さんをそうとう頼りにし、心の拠り所にされていたのですね。兄が脳出血に襲われ狂暴な発作をおこすようになってからは、ひとつ屋根の下に暮す末子さんとの絆はさらに深いものになっていたようです。
「蜜蜂のように」ひたすらに働き、40年ものあいだ苦悶にたえながらもやさしさをうしなわなかった末子さん。『蜜蜂』はそんな末子さんの死からはじまり、柔らかに清澄な文章で追慕の情がしたためられてゆきます。そのほとんどは亡兄嫁に「あなた」とよびかけ、「つつじが咲きそめました」「これから塩せんべいでひとりお茶をのむところ」「ゆうべは珍しくあなたの夢をみました」・・・そんなふうに日々のできごとを心をこめて報告していくのです。時おり淋しさを抑えきれなくなりながら・・・。
『銀の匙』もそうだったけれど、中さんは遠い過去のこまごました日常をじつに鮮明に記憶している人。思いがけず、本のあいだから色褪せた匂い菫の押し花をみつけ、まだ二人が若かった頃の美しい「思い出の種」を回想するところが印象的でした。

随筆のなかには、しばしば詩が織り込まれています。どの詩も、亡き人を思うせつなさとやさしさにみちています。
みだれ箱から出た小さな紙入
使いさしの市電の切符
あなたはもしや忘れたのじゃないか
まだ遠くへ行かないのなら
とりに戻っておいでなさい
Author: ことり
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