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『ことり』 小川 洋子

評価:
小川 洋子
朝日新聞出版
¥ 1,575
(2012-11-07)

世の片隅で小鳥のさえずりにじっと耳を澄ます兄弟の一生。
図書館司書との淡い恋、鈴虫を小箱に入れて歩く老人、文鳥の耳飾りの少女との出会い・・・やさしく切ない、著者の会心作。

愛する鳥たちと規則正しい生活に執着し、弟以外の誰にも理解されない小鳥のさえずりのような言語をあやつるお兄さん。
そんなお兄さんをやさしく見まもり、お兄さんが亡くなってからも、自宅と青空商店とゲストハウス、それから鳥小屋のある幼稚園・・・籠の中みたいな日常からはみ出すこともなく、ひたむきに一日一日をすごした「小鳥の小父さん」の生涯の物語。

ひっそりと満ちたりた、孤独で単調な日々にも時は流れ、やがて小父さんの生活は少しずつ狂いはじめます。ささやかな幸福が奪われてゆくそのたびに、物語にとり残されたモチーフがひとつ、またひとつと胸のなかにともっていくようでした。
ポーポーの包装紙でつくられた小鳥ブローチ、お兄さんの形どおりにくぼんだフェンス、隅々まで清潔に掃除された鳥小屋、鳥の本ばかりがならんだ貸し出しカード、鳥籠から大空へとはばたいてゆく小鳥――・・・
小父さんとお兄さんがこの世に生きた証たち。ちらちらと揺れるそれらはまるで、お誕生日のケーキにともされたろうそくのよう。ひとつひとつがちっぽけで、それでもかけがえがなくて。さいごには一瞬でふうーっと吹き消されてしまうけれど、そのあたたかな残像は切ない余韻となって私の心にのこっています。
いなくなってしまった人はこんなふうに生きている人のなかで生きつづけるのかもしれないと、終盤で小父さんのもとへやってきた野生のメジロは‘お兄さん’だったのかもしれないと・・・、そんなことを思いながら本をとじました。
Author: ことり
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