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『最終目的地』 ピーター・キャメロン、(訳)岩本 正恵

南米ウルグアイの人里離れた邸宅に暮らす、自殺した作家の妻、作家の愛人と小さな娘、作家の兄とその恋人である青年。ナチスの迫害を逃れてきた先代が、ドイツ風の屋敷をたてたこの場所で、人生を断念したかのように静かな暮らしが営まれていた。そこへ突然、作家の伝記を書こうというアメリカの大学院生がやってくる。思いがけない波紋がよびさます、封印した記憶、あきらめたはずの愛――。
全篇にちりばめられたユーモアと陰翳に富む人物像、それぞれの人生を肯定する作者のまなざしが、深く暖かな読後感をもたらす。英国古典小説の味わいをもつ、アメリカの傑作小説。

あふれる陽光、ゆらめく葉陰・・・。さふさふした芝生を裸足で歩いているみたい。
風通しよくエレガントな文章はやさしく心を撫で、ゆるりとくつろいだ気分で物語のなかを歩いてゆきました。

忘れ去られたような緑深いオチョス・リオスで、しずかな日々を送る5人の男女。
すこしずつ幸福で、すこしずつ不幸、どこかかたくなな平穏のなかに落ち着いていた彼らの人生が、アメリカ人青年・オマーの来訪によってふたたびゆるやかに動きはじめます。森の奥にひそむ小さな泉に、思いがけなくさざ波がたつように。
コーヒーの香り、窓から差しこむ光の加減、ミツバチのうなる羽音・・・その場に私も立っているようなディテイル描写の繊細さ、そして生き生きと交わされる人びとの会話が彼らの気持ちや表情までもていねいにすくい上げます。
きらきらとものういこの土地と人びとは、やがてオマー自身の心も動かして、人生は大きなゆらぎをみせるのです。

臆病で善良な人びと。生まれたての恋のためらい。流れゆく時間。
たどりつくべき場所にたどりついた、そんなふうに思っていても、人生はいつまた新たな目的地にむかって動きだすか分からない。
・・・人生って、なんてふしぎで、魅惑的で、しみじみと美しいんだろう。
彼らがえらびとったそれぞれの道を――哀しい別れすらも――、すべて祝福したくなる前向きな物語に、心がすがすがしい風でみたされるようです。

(原題『The City of Your Final Destination』)
Author: ことり
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