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『夜毎に石の橋の下で』 レオ・ペルッツ、(訳)垂野 創一郎

評価:
レオ・ペルッツ
国書刊行会
¥ 2,730
(2012-07-25)

1589年秋、プラハのユダヤ人街を恐るべき疫病が襲った。墓場に現れた子供の霊は、この病は姦通の罪への神の怒りだと告げる。これを聞いた高徳のラビは女たちを集め、罪を犯した者は懺悔せよと迫ったが、名乗り出る者はなかった・・・。
神聖ローマ帝国の帝都プラハを舞台に、皇帝ルドルフ二世、ユダヤ人の豪商とその美しい妻、宮廷貴族、武将、死刑囚、錬金術師、盗賊団、道化、画家らが織りなす不思議な愛と運命の物語。夢と現実が交錯する連作短篇集にして幻想歴史小説の傑作。

このまま、古(いにしえ)のプラハの夜気に閉じ込められてしまいたい・・・。
企みとまどろみにみちた美しい夢幻の世界をいつまでもたゆたっていられたら・・・。

物語は神聖ローマ皇帝をはじめ実在の人物と伝説とをまじえながら、ドイツ人の少年「わたし」が家庭教師(=ユダヤ人の豪商モルデカイ・マイスルの末裔)に聞いたお話、という体ですすみます。
二人の芸人が墓場を彷徨う幼な子たちの霊を見て高徳のラビを訪ねる話、処刑を明日に控えた不運な男が牢獄でいっしょになった犬と言葉を交わす話、青年時代のルドルフ二世が森で出会った妖魔からくすねた銀貨の話など――・・・入れ子になっている個々の挿話も、でたらめにならべられているわけではなくお互いによびあうように存在していて、やがてラストは冒頭ぶぶんに帰結する・・・そこからひとつの愛と嫉妬がうかび上がってきたとき、くらりと時空が歪み、熱いため息がこぼれました。
ローズマリーに絡みつく赤い薔薇、ルドルフ二世の憂い、一文なしで死んだユダヤ人の豪商、麗しの人妻がみた「すばらしい夢」・・・。歴史を行きつ戻りつしながら描かれてきた物語のかけらたちが、狂おしい愛のもとに繋がれていく。儚くも美しい、夜露の首飾りのように。

「お前たちの生は悩みと苦しみに満ちている。そのうえなぜ愛などに煩うのだ。分別を失い、心を惨めにするだけだというのに」

この本を読んでいた2日間、私の魂はからだから抜け出し、何百年も時をさかのぼってプラハの街の蒼ざめた上空を飛び交っていたような気がします。
月光につつまれたヴルタヴァのほとりで、甘やかな薔薇の芳香に誘われて・・・。
いくつもの夢を精霊のように渡り歩く、そんなうっとりとした心地にさせてくれた作者と翻訳者に、最大級の賛辞を。

(原題『Nachts unter der steinernen Brücke』)
Author: ことり
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