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『女獣心理』 野溝 七生子

美術学校を出、銀座の店頭装飾を仕事にした女性征矢(ソヤ)は、やがて伯爵のパトロンのサロンで、男達の憧憬の的となり、突然に失踪。巷では堕落した街の女になったとの噂が出る。澄みとおる程美しい眼をし、ギリシャ神話の白鳥の姿のゼウスと交わった女神に擬えて「レダ」と呼ばれた神秘の女が奔放に生き永遠の美と自己愛に殉じ狂おしく果てる姿を、「私」の眼を通し描く。日本文学に希れな、鮮烈な女性像。

危うく翳りのあるソヤと、美術学校の同窓で彼女に愛と憧憬をささげる沙子(すなこ=通称シャコ)。沙子の従兄で婚約者の新和塁(しんな・とりで=通称ルイ)を語り手に、3人の複雑にからまる‘恋情’を描いた物語です。
清らかで無垢なお嬢さん、という印象の沙子にたいし、ソヤは蒼白く陶器めいた魅力をまとった王妃のよう。沙子はルイに話して聞かせます。学生時代にソヤが見せた、希臘(ギリシャ)の王の娘・レダを描くための計り知れない情熱、透徹した自己愛を。少女独特の同性への憧れは、沙子をいまだソヤに陶酔させているのです。

沙子との結婚直前にソヤの特異な妖しさに惹かれるルイ、新婚旅行でルイとのからだの交わりを拒絶する沙子、ソヤを愛することで死にながら生きるような無為の人生を見いだしたというパトロンの伯爵・・・。
けれどそんな周囲の人たちの苦悩や波風をよそに、当のソヤは自己愛以上の愛は欲しない‘孤高の獣’。自己愛はゆるゆると自滅の道へと結びついてゆきます。
ほの昏く純粋な少女性をうかび上がらせた、ひりつくような透明感のある小説。
文章が哀しいほどに美しいです。
Author: ことり
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