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『七夜物語』(上・下) 川上 弘美

評価:
川上 弘美
朝日新聞出版
¥ 1,890
(2012-05-18)

小学4年生のさよは、ちょっぴり風変わりな母親とふたり暮らし。
さよは本が好きで、図書館に入りびたっている。クラスメイトで母親のいない仄田(ほのだ)くんとはそこでよく会い、境遇が似ていることもあってなかよしに。
そんなある日、さよは図書館で『七夜物語』という一冊の本に出会う。それは何度読んでもなかみを憶えていられないふしぎな本。さよと仄田くんはこのふしぎな本にみちびかれ、夜の世界へとまよい込んでゆく――。

「わかったかい。ここは、時の流れのはざまにある場所。夜は、まだまだ来ないんだよ。だからあんたたちも、家に帰る必要はないのさ」
たそがれの支配する台所でふたりを待ちうけるのは、料理好きの大ねずみ・グリクレル。夜の世界は妖しくて、さよたちの前には、はちみつ色の影・ミエルやちびエンピツ、うつくしいこどもたち・・・そんなふしぎな存在がつぎつぎに現われます。
命ぜられたお皿洗い、甘い眠り、小学校の危機、さくらんぼのクラフティーの夜。
やがてふたりは、光と影となった自分たちとの戦いにいどむことになり・・・?!

ふしぎな世界の入り口をぬけ、めくるめく夜の冒険にでられる本。
さよたちの生きる‘現在’は1977年で、給食のメニューや休み時間の遊びなどに昭和の香りがただよっています。夜の世界はもちろん、70年代の日常風景に旅立つことができるのも楽しい。
‘夜’をこえて現実にもどるたび、グリクレルのエプロンが手元にあったり、へんてこな葉書がとどいたり・・・ふたつの世界がほんのりと、けれどたしかにつながっていることにワクワクしました。ほの昏く幻想的な世界観を雰囲気たっぷりに描いてみせてくれる酒井駒子さんの挿絵もたくさんで素敵。
現実と本の世界を行ったりきたりするうちに、ふたりは成長してゆきます。
完璧にうつくしいものは、世の中にとどまることはできない・・・
夜の世界の住人とくらべ、自分たちはなんてごちゃごちゃ混沌としているのだろう・・・
それは読み手の私たちに投げかけてくる、ふしぎにはかないメッセージのように。

いつの時代のものなのか、どこの言葉で語られたものなのか、誰も知らない物語。
けれどいつからかはじまり、つづいてゆき、そして書きとめられたという物語。
読み終えたとたん、『七夜物語』という言葉がなんだか懐かしさを感じさせます。このふしぎな夜の世界に、小さい頃の私もまよい込んだことがあったのかしら・・・?
・・・だって、大人はその冒険を憶えていられないのだから。
Author: ことり
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