<< 『サーカス象に水を』 サラ・グルーエン、(訳)川副 智子*prev
『のれんのぞき』 小堀 杏奴 >>*next
 

『雲をつかむ話』 多和田 葉子

評価:
多和田 葉子
講談社
¥ 1,728
(2012-04-21)

人は一生のうち何度くらい犯人と出遭うのだろう――。
わたしの二ヵ国語詩集を買いたいと、若い男がエルベ川のほとりに建つ家をたずねてきた。彼女へのプレゼントにしたいので、日本的な模様の紙に包んで、リボンをかけてほしいという。わたしが包装紙を捜しているうちに、男は消えてしまった。
それから一年が過ぎ、わたしは一通の手紙を受け取る。
それがこの物語の始まりだった。

儚々と捉えどころがない夢みたいなできごとが、みっちりと密度の濃い言葉でつづられている、そんな印象。ゆらりゆらり・・・消えいりそうに淡い虚実の境いめをたゆたうことの不穏さと心地よさ。
ある日突然届いた犯人の手紙から、「雲蔓(くもづる)式」に「わたし」の奇妙な過去が明かされていきます。まるで、雲の意図――蜘蛛の糸――に導かれるように。

1987年、ハンブルクの街、エルベ川のほとり。
感情を押し殺し、淡々と音もなく、ちりぢりに流れていく遠い異国での物語。
ドイツ語と日本語、犯人と被害者、雲と蜘蛛・・・簡単には相容れないものものが、後半で登場するマヤと紅田(ベニータ)にかさなっては彼方へと消えてゆきました。
感覚的に、意図的に、つむぎ出された言葉たちをつかみあぐね、私もまた記憶の波間をゆらりさすらう。過去に出遭った‘私だけの’犯人をさがす旅。記憶の穴を埋めた嘘がいつのまにか均されてしまうのなら、真実とは雲のようなものなのかも・・・。
Author: ことり
国内た行(多和田 葉子) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -