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『サーカス象に水を』 サラ・グルーエン、(訳)川副 智子

評価:
サラ グルーエン
武田ランダムハウスジャパン
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(2012-02-11)

大テントの中に鳴り響く、大歓声と拍手。いよいよ目玉の演目、象の曲芸がはじまった。と、異常事態を知らせるマーチが場内に鳴り響く!逃げ惑う客、脱走する動物たち――そのとき、ぼくは見てしまった。「彼女」があいつを殺すところを・・・。それから70年。93歳の老人は、移動サーカスで過ごした4ヵ月間を語り始める。芸なしの象、列車から捨てられる団員、命がけで愛した女性、そしてあの「殺人」のことを。

90歳(もしくは93歳)のジェイコブ・ヤンコフスキは、介護施設に入居中。ある日、町にサーカスがやってきて、彼は昔のことを思い出します。70年も前・・・とつぜん天涯孤独の身となり、獣医学部の最終試験を放棄して、たまたま通りかかったサーカス列車に飛び乗ってからの日々を。

サーカステント内での殺人シーンで幕をあける衝撃のプロローグ。
読み手はいっきにそのミステリアスな物語の迫力に引きこまれてしまいます。
本編は、偏屈だけれどとても誇り高い老人の「いま」と、彼が回顧する移動サーカスでの濃密な「過去」とが、かわりばんこに描かれていく構成。過去の章がやはりとても印象的でした。個性あふれるパフォーマーたちや、気のいい裏方の男たち、独裁的なサーカス団長――そして、サーカスの動物たち。猥雑でパワフルなステージの情景、めくるめく長旅と労働のなかで、純真なジェイコブはその裏にある社会の不条理を知り、道ならぬ恋をするのです。
はつらつとして初々しい23歳のジェイコブと、意地っぱりで淋しがりやの現在のジェイコブ老人はまるで別人のようですが、読み進んでいくうちにふたりのジェイコブがみごとに溶けあってゆきます。ひとりの人間が出逢いや経験や思い出を積み重ね、長い時間をかけて老いてゆくその意味がぼんやりと分かるような気がしました。
ジェイコブの胸に去来する、煌びやかな過去への追憶。そうして迎えるラストシーンがすごくよかったです。厚い雲のすきまから穏やかな光がひとすじ差し込むような、やさしいラスト。あたたかで切ないものがしみじみと心をみたすのです。

(原題『WATER FOR ELEPHANTS』)
Author: ことり
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