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『黒いハンカチ』 小沼 丹

住宅地の高台に建つA女学院――クリイム色の壁に赤い屋根の建物があって、その下に小さな部屋が出来ていた。屋根裏と云った方がいいそこがニシ・アズマ女史のお気に入りの場所だった。ちっぽけな窓から遠くの海を眺め、時には絵を描いたりもしたが、じつは誰にも妨げられずに午睡ができるからだった。だが、好事魔多し。そんな彼女の愉しみを破るような事件が相次ぐ。そしてニシ先生が太い赤縁のロイド眼鏡を掛けると、名探偵に変身するのだ。
飄飄とした筆致が光る短編の名手による連作推理。昭和三十二年四月から一年間、<新婦人>に「ある女教師の探偵記録」という角書付きで連載され、後に一本に纏められた短編集の初文庫化。

創元推理文庫からでている、というので気になっていた小沼丹さんの短篇集。
小沼さんといえば『村のエトランジェ』(芥川賞候補)などの純文学からスタートされ、後年はおもにご自身の体験をもとにした味わい深い私小説を書かれた作家さんです。この私小説群が大好きな私だから、彼の書かれた推理小説って一体どんなかしら??と興味津々だったのです。

主人公は午睡が好きな英語教師、ニシ・アズマ女史。
年若く小柄で愛嬌があり、でもとても勘のするどい女性です。
物語にはのどかな田園ふうの雰囲気が広がり、気品があってレトロで洒落ていて、舞台は日本なのにすこし昔の英国ミステリーみたい、そう思いました。当時の上流階級を感じさせる調度品や言葉づかい、ちょっと小粋な名前(あだ名)たち――ニシ・アズマ、妹のミナミコ、インド鶯など――もひと役かっているのかも。
窃盗や殺人など扱われる事件そのものは穏やかではありませんが、謎解きはきちんとしても動機まで深く突きつめたりはしないミステリーです。ニシ・アズマ先生は(それは小沼さんは、ということだけど)そんなことはしなくても犯人はきっと反省するだろうと信じているのですね。そのことが独特のおおらかさをかもし出し、お話をやさしい印象でふわりとくるんでくれています。

小沼さんは、ミステリーを書かれてもやはり小沼さんでした。
彼の短篇らしくラスト数行に味わいがあり、それぞれの余韻も素敵。のびやかでひょうひょうとした文章は読んでいてここちよく、嬉しくなってしまいます。
Author: ことり
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