<< 『自分の羽根―庄野潤三随筆集』 庄野 潤三*prev
『部屋』 エマ・ドナヒュー、(訳)土屋 京子 >>*next
 

『贖罪』(上・下) イアン・マキューアン、(訳)小山 太一

評価:
イアン マキューアン
新潮社
---
(2008-02-28)

1935年、イギリス地方旧家。タリス家の末娘ブライオニーは、最愛の兄のために自作の劇を上演しようとはりきっていた。役者をつとめるいとこたちが思い通りに動いてくれないストレスの中、彼女はある光景を目撃する。
多感な少女らしい潔癖と嫉妬に突き動かされたブライオニーの悪意にみちた嘘が、若い恋人たちを引き裂き、人びとの運命を大きく変えてゆく――。

広大な庭、光のあふれる噴水、シノワズリーの美しい花瓶・・・
主人公のブライオニーをはじめタリス邸に居合わせたさまざまな人たちの視点から、屋敷のようすやそれぞれの心の動きがたんねんに積み重ねられてゆきます。
きらめく夏の官能、セシーリアとロビーの恋。運命の一日。
たった一日のできごとにまるごと費やされた上巻は、素肌にまとわりつく絹のようなエレガントさ。大きな音をたてていまにも弾けてしまいそう、そんなきわどさで緊張感がじりじりと高まり・・・そうして下巻では堰をきったように物語が流れ出します。
あの事件で運命を狂わされてしまった人たちのその後が描かれたのち、すべての謎が明かされたように見えて、最後の最後で読み手に突きつけられる驚愕の仕掛け。77歳となったブライオニーが語る‘真実’にぞわぞわと心が粟だち、呆然とたたずむ私・・・。

読み終えてからは夕食の仕度をしていてもシャワーを浴びていても、この物語のことがうかんできて考えてしまいました。
贖いという‘虚構’をつくり上げることで、一生を賭けてそれを果たそうとする少女。けれど過去をなかったことにはできないし、罪じたいは消せやしない・・・なにより、赦しを乞いたい相手はもういない。まったく、霞のようにむなしくて、なんてなんて深いんでしょう。物語は終わったのに心のなかではなにひとつ終わっていないような、それどころか闇はますます広がっていくばかりなのです。
ブライオニーを通して小説とはなにか、作家とはなにか、が語られたこの重層的な物語に「小説のもつ力」を思い知らされた気がします。

(原題『ATONEMENT』)
Author: ことり
海外マ行(その他) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -