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『私の美の世界』 森 茉莉

<神さま、今日は何と好い日でしょう!>と言える日が、侘しい自分の暮しにも、腹立たしい今の世の中にも、いつかは訪れるもの・・・。幸福のおとずれをブツブツ言いながらも辛抱づよく待つ著者が、美への鋭敏な本能で、食・衣・住のささやかな手がかりから瞬時に過ぎ去る美を確実につかみ、独自の<私の美の世界>を見出す。多彩な話題をめぐって、人生の楽しみを語るエッセイ集。

エヴァ・ミルクに卵料理、フランス滞在時の気に入りのごちそう・・・
タオルの話、硝子の話、洋服(ジレやスウェタアやレインコオト)の話・・・
食べものやおしゃれについて、とびきり崇高な審美眼で語られていくマリアさんの痛快エッセイです。
こだわりや好き嫌いがはっきりくっきり書かれている文章は――ほかの本に収録され、読んだことのあるものもたくさんあったけれど――、どこから読んでも、なんど読んでも楽しい。小さなシアワセにとても敏感なマリアさんだから、読んでいると単純に「女に生まれてよかった・・」なんてうっとりと思えてくるのです。
たしかに晩年の彼女の部屋は、足の踏み場もないくらいごみにあふれていたという話・・・。でもたとえ、彼女がみていたものと現実に落差があったとしても、それは(私にとって)彼女の想像力の凄さと価値観のゆるぎなさの証明にすぎないの。
だって私はマリアさんの‘ほんものの贅沢’の精神に基づいた、ほのかに薔薇香水の香りが立ち上りそうな美しい文章が好き。ひそやかに自分のための人生を楽しんでいる、そこが好き。

これらのタオルを寝台(ベッド)の背に調和のいい順に、少しずつずらせてかけてある。ミルク入りの薔薇色を左の端に、それから順に橙の果汁の濃淡の縞の、檸檬色の、卵の黄味の色に薄緑の西洋蘭の花のタオル、薄い青竹色、白無地、白で端に薔薇色の線のあるもの。次が煙草色の浴用タオルである。使った後は汚れていなくても好きな香いの石鹸で洗うので、それらの色はみんな冴え冴えしていて、私の寝ざめを歓ばせる。(中略)
恋がなくても人生は薔薇色になりうる。
私は恋をしていなくても、恋をしている人のような楽しさを持っているということは、大変に素晴らしいことだと、思っている。
Author: ことり
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