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『日日雑記』 武田 百合子

評価:
武田 百合子
中央公論社
¥ 620
(1997-02)

通信販売、水族館、美空ひばり公演、愛猫の死・・・世事万端に興味をもつ天性の無垢な芸術者が、身辺の出来事と折々の想いを、時には繊細な感性で、時には大胆な発想で、丹念につづった最後のエッセイ集。

相変わらずものごとをよく見ている、そう思いました。
繊細で心根がやさしく、強い方だとも。
「――いなくなった人たちに」と献辞があるこの本は、日々見たもの感じたものをさりげない文章で記しながらも、親しかった人たちにもう会えない淋しさや儚さがしみしみとただよっています。

最愛のご主人を亡くしてからの日々。大岡昇平先生の死、愛猫(玉)との別れ――
とりわけ、十九歳(ヒトで言えば百歳)で死んだ玉を火葬にしたときの、火葬場のおじさんにお骨をいっぱいほめてもらうお話は胸にせまりました。かなしくて淋しい百合子さんをきっと誇らしくさせてくれたにちがいない、おじさんの言葉。
「カルシューム充分やってあったんだ。ちゃーんと分る。」「それにしても骨格がすっかり揃ってきちーんとしてて見事だねえ。惚れ惚れする。」・・・

食堂で陳列棚の模食(蝋細工の見本料理)を眺め、
突然、あの世って淋しいところなんだろうな。あの世にはこういう賑やかさはないだろうな。こういうものがごたごたとあるところで、もうしばらくは生きていたい!!という気持が、お湯のようにこみ上げてきた。
深沢七郎さんの葬儀のあとで、
畑のような庭。植木や石ころや板ぎれや、転がっている如雨露。柵の向うの雑然とした景色。それらをさーっと見回し、目薬をさすように眼に入れて帰ってきた。

無造作に散らばっている切なくもいとおしい表現たちをひろい集め、きれいな箱にしまっておきたくなるような、そんなエッセイ集でした。
Author: ことり
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