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『密林の語り部』 バルガス=リョサ、(訳)西村 英一郎

評価:
バルガス=リョサ
岩波書店
¥ 929
(2011-10-15)

都会を捨て、アマゾンの密林の中で未開部族の“語り部”として転生する一人のユダヤ人青年の魂の移住(アリヤー)――。インディオの生活や信条、文明が侵すことのできない未開の人々の心の内奥を描きながら、「物語る」という行為の最も始原的なかたちである語り部の姿を通して、現代における「物語」の意味を問う傑作。

すごい。むあっと立ち込める濃厚な気配にくずおれそう・・・。
しずかに畏れのような感情が湧き上がり、じりじりと侵されていくようでした。

うっそうと艶めく熱帯雨林、ヴィヴィッドな虫や果実たち――耳慣れないアマゾンの動植物と、インディオの人びとが守り続けてきた独自の儀式。古くから伝えられてきた神話も呪術も禁忌も、身内のできごとや冒険や不幸も・・・密林の奥深くで秘めやかに物語に詰めこまれ、その魂ともいうべき物語でいくつもの部族がひとつに結ばれているマチゲンガ族。
そんなアマゾンの未開部族の文化に共鳴し、狂気のような純粋さで「密林の語り部」へと転生していったユダヤ系青年サウル・スラータスの、文明から野蛮への旋廻が描かれてゆきます。
フィレンツェにいる「私」が回想する第一章と最終章。そのあいだに挟まれた6つの章には、「私」が友人・サウルとすごした学生時代やアマゾンを再訪する章と、マチゲンガ族の語り部が部族の暮らしや伝説を語る章とがかわりばんこに置かれた構成。とりわけ、語り部のつむぎ出す生命の脈動豊かな神秘的世界にすっかり魅せられ、引き込まれた私でした。耳の奥にはいまもまだ、語り部の妖しくはじけるような声音がうずくまっているみたい・・・。
 
語り部になることは、嘘のようなことに不可能なことを付け加えること――
バルガス=リョサさんは、「密林の語り部」に、言葉で世界を創りだす作家の姿をかさねたかったのでしょうか。情熱を抱いて未開の森の語り部となったサウルと、こちら側にとどまり書くことによってその意味を考えようとする主人公を描きながら、言葉や物語がばらばらに散らばったものを結びつけてゆく‘文学の可能性’を。

(原題『El hablador』)
Author: ことり
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