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『小さな手袋/珈琲挽き』 小沼 丹

庭の大木と小鳥たち、木洩れ陽あふれる散歩道、多くの友。おだやかでユーモアにじむ筆致のなかに浮かび上がる、遠い風景と澄明な時。

ああ・・・なんて素敵な随筆集。
読み終えてしまうのがもったいなくて、ちびりちびり大切にひもときました。
こちらは著者の友人でもあった庄野潤三さんが、随筆集『珈琲挽き』からの46編に、『小さな手袋』から15編をえらび編集された一冊。冬の日のひだまりのような読書の愉しみ・・・、旧かな遣いで味わいがますます増します。

『小さな手袋』はなんど読んでも心にしみるし、『狆の二日酔ひ』、『帽子の話』、『コツプ敷』、『お玉杓子』、『巣箱』など・・・『珈琲挽き』からの随筆も粒ぞろい。お酒をのみすぎたあとの顛末や、四季折々のお庭のようす、小さなきっかけでよみがえるとるにたらない記憶たち・・・小沼さんのやさしく柔らかな視点が私はほんとうに好き。
たとえば、『遠い人』という一篇。これは「庭で焚火をしてゐると、旅先で出会つたいろんな人が、思ひ掛けずひよつこり煙のなかに浮んで消える。」こんな書き出しではじまります。スコットランドのパルモラル城で出会った、番人の白毛の爺さんに思いをはせ・・・、
この爺さんも懐しいが、爺さんを想ひ出すと、庭園の一隅で珈琲を喫んだとき、卓子の上にちよんと乗つた一羽のきびたきも想ひ出す。
さりげなく結ばれる最後の一文が思わず胸にせまるのです。
そんなふうにふと心が立ち止まる瞬間がなんどもあって嬉しくなる本でした。彼の文章のよさはむしろ行間から立ちのぼる‘雰囲気’にあると思うの。

ひょうひょうと可笑しくて、時に哀しく、たまらなくなつかしくて――
本をめぐる旅の途上で小沼丹さんに出逢えたこと、心から幸福に思います。
Author: ことり
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