<< 『こえにだしてよみましょう』 フランチシェク・フルビーン、(絵)イジー・トゥルンカ、(訳)きむら ゆうこ*prev
『ブエノスアイレス食堂』 カルロス・バルマセーダ、(訳)柳原 孝敦 >>*next
 

『記憶の繪』 森 茉莉

少女時代から、結婚生活(パリへの渡航)、そして離婚にいたるまでがつづられたエッセイ集。
たくさんのお話が入っていて、一章が2ページ強という短さなので、ちょっとした空き時間にすこしずつ、そんな読書にもおすすめの本です。
私がとりわけ好きなのは、『卵』の章。卵好きのマリアさんは卵についていくつも文章をのこされているけれど、どれも浮き立つような心持ちで、少し夢みがちに書かれてあって心にのこります。
なんて愉しく、美しい文章なのだろう、そう思いながら読んでいます。

私の卵好きはたべることだけではない。まず形がすきで、店先に新鮮な卵の群を見つけると、家に買い置きがあっても又買いたくなる。あの一方の端が少し尖った、不安定な円い形が好きだ。楽しい形である。私は人間の赤子も、あんな殻に入って生れて、両親で温めると或日破れて生れ出るのだったら、清潔で楽しいだろうなぞと奇妙な想像を浮べる。新鮮な卵の、ザラザラした真白な殻の色は、英吉利麺麭の表面の細かな、艶のある気泡や、透明な褐色の珈琲、白砂糖の結晶の輝き、なぞと同じように、楽しい朝の食卓への誘いを潜めているが、西班牙の街の家のような、フラジィルな(ごく弱い、薄い)代赭、大理石にあるような、おぼろげな白い星(斑点)のある、薔薇色をおびた代赭、なぞのチャボの卵の殻の色も、私を惹きつける。(『卵』)
Author: ことり
国内ま行(森 茉莉) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -