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『晩年の子供』 山田 詠美

メロンの温室、煙草の畑、広がるれんげ草の群れ。香り高い茶畑、墓場に向かう葬列、立ち並ぶ霜柱など。学校までの道のりに私が見た自然も人間もあまりにも印象的であった。心を痛めることも、喜びをわかち合うことも、予期しない時に体験してしまうのを、私は、その頃知った。
永遠の少女詠美の愛のグラフィティ。

なにかに感じ入ったり思いめぐらせたり・・・ちいさな頭でひっしに考えていたことなどをぼんやり思い出して、ほろっと不思議な心地になりました。
あの頃の自分にとってすべてだった狭い世界も、あの頃の景色の見え方も、いまはもうノスタルジックな美しい箱庭のなか。
『晩年の子供』、『堤防』、『花火』、『桔梗』、『海の方の子』、『迷子』、『蝉』、『ひよこの眼』――少女たちのざらざらした孤独な心をひとつひとつ丁寧に薄い紙でつつんで、そっと差し出されたみたい。
夏の倦怠にくすぶる若さゆえの感情を、夏の盛りをすぎ秋風のまざり始める季節の感傷を、詠美さんはこんなにも鮮やかに描いてみせる。

刹那的なものと未来永劫変わらないもの。
子供でも大人でもない、‘少女’という生きものの残酷さと艶っぽさ。
詠美さんのこの手のお話を読むたびに、すりガラスのような膜越しに世界をながめていたあの頃の自分と、まわりの大人たちにたいせつに守られていた日々が胸にせつなくよみがえります。
Author: ことり
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