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『陰翳礼讃』 谷崎 潤一郎

評価:
谷崎 潤一郎
中央公論社
¥ 500
(1995-09-18)

人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。(本文より)
――西洋との本質的な相違に眼を配り、かげや隈の内に日本的な美の本質を見る。

日本の伝統美の本質を、かげや隈の内に見出し語られていく随想集です。
奥ふかい羊羹の色あい、黒うるしの椀に入ったお味噌汁、能役者の頬の色つや・・・それらはすべて、ほの暗い行燈や蝋燭のあかりを前提にしている。ほの暗さのなかでこそ、それらは美しく引き立ち、闇と調和する。この本のなかで谷崎さんはそんなふうに述べています。
翳りにある美を愛する、というのは日本人につよく根づいている感覚なのでしょうね。床の間の暗がりや漆器の黒い艶には私も妖しい魅力を感じてしまうもの。
とりわけ、紙についての文章が好き。おなじ白い紙でも、光線を撥ね返すような西洋紙とちがって、奉書や唐紙の肌は、
柔かい初雪の面のように、ふっくらと光線を中へ吸い取る。そうして手ざわりがしなやかであり、折っても畳んでも音を立てない。それは木の葉に触れているのと同じように物静かで、しっとりしている。
和紙のしめやかな風合いには、心がほっと安らぎます。

笑ってしまったのは厠のこと。
たとえ衛生的でも、風雅や花鳥風月とは縁が切れてしまう西洋式トイレは明るすぎてイヤなのだそうで、そのことについてのユニークな持論がふりまかれます。
最後の章は『厠のいろいろ』。よほど思いいれがあるのかしら・・・ここでも厠について熱く語られているのが可笑しい。

小説とはまたちがった魅力が楽しめる一冊でした。
「陰翳礼讃」――すてきな言葉。
ほの暗い空間で、日本の文化や伝統にあらためて触れてみたくなります。
Author: ことり
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