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『きことわ』 朝吹 真理子

評価:
朝吹 真理子
新潮社
¥ 1,260
(2011-01-26)

永遠子は夢をみる。貴子は夢をみない。
葉山の高台にある別荘で、幼い日をともに過ごした貴子と永遠子。ある夏、突然断ち切られたふたりの親密な時間が、25年後、別荘の解体を前にして、ふたたび流れはじめる――。第144回芥川賞受賞。

ゆらゆら、ゆうらり。
流れるような美しい文章に身をまかせ、夢うつつをゆらりたゆたう。
まどろみと覚醒をくり返し、くり返し、くり返し。

25年の時を経て、貴子(きこ)と永遠子(とわこ)、ふたりのあいだで凝っていた時間がふたたび流れ出す物語です。
柔らかな肌にのこる甘噛みの痕、ベランダでひるがえる赤い靴下、チェスの棋譜が奏でる音楽、背中あわせにからがり引かれあう後ろ髪――
距離感がこわれ、ひずんでいく光景。うかび上がる雨滴の音と記憶のなごり。
過去と現在、夢幻と現実が、ほの淡い時空間で幾重にも交差します。そんな紗がかかったような美しいゆらめきに、心地よく引きこまれてしまっていました。
かつて体温がとけあうほどそばにいながら、いまでは重ならないふたりの記憶。
熱をもったくちびるも、立ち枯れの向日葵も、なまあたたかな寝息も・・・、すべてがぼんやりと夏色にかすんで、夢のなかにとり残されてしまったような読後感。

「夢も、みている間はほんとうのことでしょう」

そもそも、時間というのは目にみえなくて、感触もなくて、匂いだってない。
だから時間そのものを文章で描写するなんてほんとうはできないはずなのだけど、この小説はもしかしたら無謀にもそれを試みてしまったのかしら・・・、私にはそんなふうに感じられたのです。無謀にも、勇敢に。
「きことわ」というタイトルの、どこかフランス語っぽいひびきもとても好きです。
Author: ことり
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