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『台所のおと』 幸田 文

女はそれぞれ音をもってるけど、いいか、角だつな。さわやかでおとなしいのがおまえの音だ。料理人の佐吉は病床で聞く妻の庖丁の音が微妙に変ったことに気付く・・・音に絡み合う女と男の心の綾を小気味よく描く表題作。他「雪もち」「食欲」「祝辞」など十編。
五感を鋭く研ぎ澄ませた感性が紡ぎ出す幸田文の世界。

幸田文さんは、私に‘竹’を思い起こさせる人。凛とまっすぐで、しなやかに強くて。
しっとりとした女らしさが文章から匂いたってくる、日本女性の鑑のような人。

やはりことさら素晴らしく感じるのは、『台所のおと』でしょうか。
障子越しの病床で、台所仕度のちいさな音に夫はじっと耳を傾けている。
ほの昏い和室のしつらえ、包丁の音のささいな変化、お番茶の香ばしさ、しおしおと降る春の雨・・・空気のふるえまでも伝わってきそうな清らかで艶っぽい情景描写はふとした日常のしぐさを丁寧にすくい上げ、そこにスッ・・、と哀しい翳を落とす。
美しい身のこなしや、台所の物音ひとつで描き出される夫婦の絆、そんな密やかな気配にとけ込ませた鋭さがきりりと胸にひびいて、いつのまにかしんと厳かな気持ちになっていた私でした。

お話のひとつひとつがしずかな光を放ち、そっとまたたいている短篇集。
日々のたわいないできごとに、人の心情の移り変わりに、心をもっとすませたい。
文さんの文章に触れていると、自然と背すじがのびる思いがします。
Author: ことり
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