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『幻影の城館』 マルセル・ブリヨン、(訳)村上 光彦

評価:
マルセル ブリヨン
未知谷
¥ 2,940
(2006-09)

霧の濃い黒い森の中に優美な城館が佇む。
亡霊が支配する城壁の内部は、生きる習慣を失った植物、永劫回帰の罠に捉われた時間・・・。森の中の不安な孤独を超え、自分自身を再び見出すイニシエーションの旅。

ものうくて甘いしずく。薔薇の香り。夢のなかの、そのまた夢へ――
霧深い幻想世界をあてどなく彷徨う、ため息がでるほど美しい読書体験でした。
柔らかなシフォンを幾重にもまとったような憧れの城館。すぐそばにあるのに、見えているのにたどり着かない。ううん、たどり着かないことを愉しんでいるみたい・・・。

鬱蒼とした昏い森を城壁に沿って歩いていた「わたし」は、ふと美しい城門の前に出る。誘惑に負けて扉をぬけると農場があり、マリヤンヌとその母に出逢う。「わたし」は母娘の家に身をよせ、でもなぜか城館にはなかなか向かわずに、まずはその周囲をぐるりとりまく林苑をすこしずつ散策する。
奇妙な彫像、騎馬の男、庭園監督の精神的苦悩をもった木々の話、泉水に映った見知らぬ女性、<辺境伯夫人>、モンタギュー・ブルームとバルベ犬、7オクターヴのフルートの魔法の旋律、麗しの祝祭・・・、林苑でのめくるめく魅惑の日々。
やがて城館は、闖入者の「わたし」をゆるやかにいざない――・・・

夢から夢へと渡り歩くように、私も閉ざされた神秘の世界に分け入りました。
緑の壁の迷路、フレスコ画や綴れ織りできらびやかな意匠をこらした城館内部、妖しく息づく‘品物’たち。ひとつひとつの文章、言葉の花びらが静かに呼応して積み重なってゆきます。謎めいた城館のうすら怖い真実とは・・・?
目覚めてもなお指先から離れない夢の残像・・・甘やかにはかない幻の物語にもっともっと惑わされたくて、いっそ帰り道をなくしてしまいたくなるのです。

(原題『Château d'ombres』)
Author: ことり
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