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『フリアとシナリオライター』 マリオ・バルガス=リョサ、(訳)野谷 文昭

美しきフリア叔母さんと天才シナリオ作家を相手に、小説家志望の大学生である「ぼく」は、恋と芸術に熱中する日々。やがてシナリオ作家の様子がおかしくなり、放送中のドラマが錯綜し始めて・・・。
『緑の家』や『世界終末戦争』など、重厚な全体小説の書き手として定評のあるバルガス・リョサが、コラージュやパロディといった手法を駆使してコミカルに描いた半自伝的スラプスティック小説。

かろやかで、めまぐるしくて、それでいて濃密。
実際に作者のマリオ(バルガス=リョサ)さんは19歳の時に義理の叔母・フリアさんと結婚しているそうで、そんな実生活が一応のベースにはなっているようです。
でもお話の内容は、ユーモアとパロディがたっぷりと盛り込まれ、とてもほんとうとは思えないおかしな展開がたくさん。楽しくて、ちょっと哀しくもある物語です。

小説家志望の18歳の青年・マリオがだんだんと惹かれていく恋の相手は、32歳で離婚歴のある義理の叔母・フリア。フリアも、「私はあなたに何年で捨てられるの?」なんて言いながらも、目の前にある若さにのめり込んでしまう。
マリオの恋心はあまずっぱく健康的だけど、でもそれはやはり禁断の恋。ふたりは口うるさい親戚たちの目をぬすんではかわいらしいデートをかさね、結婚までの困難な道のりを突き進んでいく。
いっぽう、マリオの勤めるラジオ局(正確には同系列のラジオ局)には、ボリビアからシナリオライターのペドロ・カマーチョが迎えられる。カマーチョはすばらしい才能の持ち主で、大量のラジオドラマの脚本をたった一人でみるみる仕上げ、ペルーじゅうの聴衆たちをまたたくまに夢中にさせて――?

そんなカマーチョの書いたラジオドラマの数々が、本筋のストーリーとかわりばんこに挿入されていくのですが、これがほんとうにどれもこれもおもしろいのです。こんな魅力的なお話が次々に放送されたら、私だってラジオにかじりつきになっちゃう!
結婚式を迎える美しい娘とその兄の真実、謎の黒人を見つけた軍曹の苦悩、ネズミ駆除に執念を燃やす男の過去・・・などなど、極端な人生観やコンプレックスが反映された破天荒なお話たちが、贅沢にもなんと9編。
けれどカマーチョは忙しさから精神に変調をきたし、ラジオ劇場は別べつのストーリーどうしが混沌と錯綜しはじめ、どんどん狂気じみていきます。マリオとフリア叔母さんの秘密の恋も、ついに一族の知るところとなり、大変なことになっていきます。
後半はもう読みながら頭のなかがぐらんぐらん・・・!でもカマーチョの書くお話はどれも傑作――その迷走っぷりもふくめて――だし、マリオたちが無事に結婚できるかも見届けたいし、一気に読んでしまいました。
マリオの同僚で‘大惨事好き’のパスクアルや親友のハビエル、ちびのナンシーなどこの恋の数少ない味方になってくれる友人たちもとても素敵。それに結婚に反対する一族もけっして頭ごなしではないのですよね。その結びつきのつよさや深い愛情も伝わってきます。
猥雑さと敬虔さがまざり合ったラテンアメリカらしい喧噪。その情熱。

頁をめくる手がとまらなくて、物語の行方にワクワク胸が高鳴って、でも最後まで読んでけっして楽しいばかりのお話ではないと気づく・・・読み手を心地よく翻弄してくれるこんな本が好き。
時間を忘れて読み耽る愉しみを、たっぷり与えてくれる本でした。

(原題『La tía Julia y el escribidor』)
Author: ことり
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