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『ザボンの花』 庄野 潤三

ひだまりの縁側でのんびりくつろいでいるような、そんな心地になれる本でした。
おいしいお茶をすすりながら・・・庭にやってきたのら猫に挨拶しながら・・・。

昭和30年代の東京郊外。
5人家族――若い夫婦と3人の子ども――が、麦畑にかこまれた一軒家で織りなす日々。慎ましやかで幸福な日々の暮らしが、春から晩夏にかけての季節のうつろいとともに柔らかな文章でつむぎ出されていくお話です。
近所の奥さんとのおしゃべりとか、仲良しの子供どうしの遊びや喧嘩、音楽会にくり出したり、やどかりを飼ったり・・・描かれているのはささいなエピソードばかりだけれど、そのひとつひとつがかけがえがなく、いつのまにか心をぽかぽかと満たし、ある時は夕焼けみたいにしんとはかない気持ちにさせてくれるのです。

暑い一日であった。正三は昼から四郎をつれて近くの小川へ魚をすくいに行った。矢牧はよほど正三について行こうかと思ったが、つい面倒くさくて、家で昼寝をしていることにした。
千枝は、山とたまった洗濯物をかかえて奮闘している。
そして、なつめのところへは、ユキ子ちゃんがまりつきをしに来ている。今日の休みをたっぷりまりつきをしようという気だ。
矢牧は庭で遊んでいる子供の声を聞きながら、うつらうつらしている。
たったこれだけの文章で、お父さんが家族をやさしくつつみ込んでいる情景がふうわりとうかんできます。なんて平穏で幸福なひととき。
「明日も、あさっても、こんな日がずっとずっとつづきますように・・・」
うつろいゆく時間のなかでそう願わずにはいられない、心底いとおしい物語でした。
Author: ことり
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