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『リヴァトン館』 ケイト・モートン、(訳)栗原 百代

評価:
ケイト モートン
武田ランダムハウスジャパン
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(2009-10-16)

由緒正しきリヴァトン館に仕えたメイドとしての日々。
笑いさざめく貴族の娘達、厳格な執事の小言、心躍る晩餐会、贅を尽くした料理の数々――
死を目前にした老女の回想は懐かしい日々をめぐり、やがてあの悲劇へたどり着く。思い出というにはあまりに濃密な記憶・・・。
滅びゆく貴族社会の秩序と、迫りくる戦争の気配。時代の流れに翻弄された人々の愛とジレンマを描いた美しいゴシック風サスペンス。

老女・グレイスのメイド時代の回想を通して、当時の貴族社会がキラキラと描かれています。才気と魅力にあふれた愛らしい少女が、メイドならではの立場からこの時代独特の価値観や皮肉な巡りあわせに翻弄されてゆく物語です。
いくつもの秘密や嘘がからまり覆われた真実に、ひと糸ひと糸解きほぐすようにせまっていく構成。たった一度のささいな齟齬で、登場人物たちがじわじわと破滅へと追いやられるさまがもどかしくて痛々しくてたまらない・・・。

読み手のはやる気持ちとは対照的に、物語はゆったりと濃密にすすみます。
哀しくもやさしい時の流れ。ゆるゆると現実の輪郭がぼやけて、グレイスといっしょに過去まで戻った気分になって読みました。お仕えするお嬢さま姉妹のさざめき声や子ども部屋の‘ゲーム’、貴族や召使いたちが行き交うきらびやかなパーティの様子がうかんでは消えて、まるで彼女の初めての体験にドキドキするように。
グレイスに絶対の信頼をおくハンナ。グレイス自身の謎と、詩人の死の真相。
波乱の時代を生きたグレイスの終わりゆく一生が、若い頃に経験した悲劇のうえに成り立っていると思うとせつなくなります。あの事件の秘密をたったひとりで抱えて生きてきた、それはどんな思いだったのでしょう。

彼女の人生をほのかに照らす、途絶えた夢をつないだ献身の絆――
甘くまばゆくロマンティックで、そしてあまりにも残酷な物語でした。

(原題『The Shifting Fog』)
Author: ことり
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