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『銀の匙』 中 勘助

評価:
中 勘助
岩波書店
¥ 605
(1999-05-17)

なかなか開かなかった茶箪笥の抽匣からみつけた銀の匙。伯母さんの無限の愛情に包まれて過ごした日々。少年時代の思い出を中勘助(1885-1965)が自伝風に綴ったこの作品には、子ども自身の感情世界が、子どもが感じ体験したままに素直に描き出されている。
漱石が未曾有の秀作として絶賛した名作。改版。

追想のなかで生きることができる人。
中勘助という人は、ほんとうの意味でそれができた大人、なのでしょう。
大人が書いた子ども時代であるはずなのに、その視点はあまりにも子どもそのものでびっくりします。病弱で気が小さく、そのくせ癇癪もちだった彼の瞳にうつる情景――おもちゃやお菓子を存分に与えられ、伯母さんにたっぷり甘やかされて育った日々のこまごまが、匂いたつような濃やかさで活写されていくのです。

青や赤の縞になった飴をこっきり噛み折ったときの甘い風、雫がほとほとしたたったほおずき、李の木のすーんとした薫、仲よしのお漾覆韻ぁ砲舛磴鵑遊びにくるときのぽくぽくちりちりいう足音、夕日をあびてたおたおと羽ばたいてゆく五位のむれ・・・、思い出をいきいき彩る可愛いひびきが心地よくて好き。
たとえば、ある晩餐の食卓の、こんなふうに素敵な描写も。
そこにはお手づくりの豆腐がふるえてまっ白なはだに模様の藍がしみそうにみえる。姉様は柚子をおろしてくださる。浅い緑色の粉をほろほろとふりかけてとろけそうなのを と とつゆにひたすと濃い海老色がさっとかかる。それをそうっと舌にのせる。しずかな柚子の馨、きつい醤油の味、つめたく滑(すべ)っこいはだざわりがする。

きらきらと繊細で、泉のように豊かな感性・・・
どれだけ時を経ても色褪せない、ふくらかな文章・・・
儚くこぼれ落ちてゆくだけの情景をひとつひとつすくい取り、ぴかぴかのまま見せてもらったみたいです。
Author: ことり
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