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『忘れられた花園』(上・下) ケイト・モートン、(訳)青木 純子

評価:
ケイト・モートン
東京創元社
¥ 1,836
(2011-02-18)

1913年オーストラリアの港に着いたロンドンからの船。すべての乗客が去った後、小さなトランクとともにたったひとり取り残されていた少女。トランクの中には、お伽噺の本が一冊。名前すら語らぬ身元不明のこの少女をオーストラリア人夫婦が引き取り、ネルと名付けて育て上げる。そして21歳の誕生日に、彼女にその事実を告げた。
ネルは、その日から過去の虜となった・・・。
時は移り、2005年、オーストラリア、ブリスベンで年老いたネルを看取った孫娘、カサンドラは、ネルが自分にイギリス、コーンウォールにあるコテージを遺してくれたという思いも寄らぬ事実を知らされる。
なぜそのコテージはカサンドラに遺されたのか?ネルとはいったい誰だったのか?茨の迷路の先に封印され忘れられた花園のあるコテージはカサンドラに何を語るのか?

ふるふると甘美なものが心をみたして・・・すばらしい読みごたえでした。
自分の出生の謎(ルーツ)を探るネルの物語、素敵なお話をつぎつぎにつむぎ出すイライザの物語、祖母から異国の見知らぬコテージを遺されたカサンドラの物語。100年もの時をまたいで、オーストラリアとイギリス、3つの時代のストーリーがまるでお互いをよびあうかのようにつながり、編まれてゆきます。ミステリアスな迷宮の深みにくるくるとはこび込まれる、そんな感覚がとても心地よかった。
美しい本からとび出した3編のお伽噺も、幼い頃胸をときめかせながら読んでいた大好きだった童話の世界を思い出して、なんだか嬉しくなってしまったのです。

城壁に幾重にもからみついた茨がとり払われていくみたいに、家族の過去がゆっくりと目覚めはじめます。その象徴である古くかぐわしいお伽噺集と、長いあいだ閉ざされ‘誰か’の訪れをじっと待っていたコテージ――秘めやかな花園。
たくさんの祈りや愛情さえも、歯車が狂いままならないもどかしさ。そうして時が経ち、歴史の全貌を解き明かすことなんてできるはずもないもどかしさ・・・。彼女たちの願いが純粋であればあるほど、美しければ美しいほど、かき立てられる思いがしました。

「お帰りなさい、ずっと待っていたのよ」――
甘くやさしい囁きが胸をふるわせ離れない。林檎の木の下で、妖精のように可憐なイライザが眠りこんでいる・・・そんな絵画のような花園のおもかげも。
過去から現在、そして未来へとつらなる時間。そのすきまからこぼれていく膨大な記憶たち。けれど、心をこめた祈りや愛情はちゃんとつながっていく・・・目に見えるものだけが真実じゃない・・・めくるめく物語の終わりに希望の光がふわりと差し込んで、それはとても柔らかなまなざし、‘家族の約束’のように感じられました。

(原題『THE FORGOTTEN GARDEN』)
Author: ことり
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