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『小さな町』 小山 清

評価:
小山 清,堀江 敏幸
みすず書房
¥ 2,808
(2006-10)

新聞配達をして戦前の数年間を暮らした下谷竜泉寺町、炭坑員としておもむいた雪深い夕張の町。これら「小さな町」で出会った、それぞれの、ささやかな人生を、懸命に静かに生きる人々。人生のよろこびやかなしみを、不器用な手つきですくいあげるように綴る。
表題作の他「をぢさんの話」「雪の宿」など短篇10篇を所収。1965年、不遇のうちに53歳で没し、近年ふたたび注目を集めつつある作家の代表的作品集。

やさしく灯る心遣い、じんわりとしみてくる人肌のぬくもり。
町から町をさすらう旅人のような人たちと、その土地で地道に暮らす人びとの生活がやさしく響きあい、つかのまのささやかな心の交流が生まれる。
戦争へと向かっていく貧しい時代に、けれどたしかにあった‘ふれあい’のエピソードをいくつも積み上げるようにして描かれた自伝的小説集。

私はただこの親しみのことを語りたくて筆を執つただけである。それにこの町も戦災のために無くなつてしまつて、そこに住んでゐた人たちも離散して、いまはその消息もわからないといふことが、私にこれを綴らせるのである。
どのお話も、ずいぶん時が流れたのち、「いまはもうここにはない町」を思い起こしながら書かれています。下谷での新聞配達時代、夕張炭坑での暮らし・・・記憶のなかのふたつの土地からうかび上がってくるのは、レンズの奥でさかさまの小さな光景になってしまったような遠い日々。心地よく閉じられた、後ろめたい過去たち。
たびたび警察のやっかいになる「をぢさん」や、裏の顔をもつ「与五さん」、その弟でぼんやり屋の「太郎さん」など、この本に出てくるのは素朴で不恰好で、どこかしらに弱みをかかえた人ばかりです。不遇つづきの著者は、そんな彼らにそっとよりそい、温かい郷愁にも似たまなざしを投げかけています。
Author: ことり
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