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『よくできた女』 バーバラ・ピム、(訳)芦津 かおり

舞台は、まだ食料配給がつづく戦後のロンドン。
ヒロイン兼語り手のミルドレッドは30歳を過ぎた独身女性。両親の残してくれたささやかな収入に頼りつつ、パートタイムで働く彼女は、親しい牧師姉弟や旧友ドーラと交流したり、教区活動に加わったりしながら平穏な生活を送っている。
そんな彼女の住むフラット上階に、文化人類学者のヘレナと海軍将校の夫が引っ越してきた。美人で魅力的だが家事はさっぱりのヘレナと、ハンサムで女たらしのロッキーという「華のある」夫妻の登場で、ミルドレッドの静かな生活に波風が立ちはじめる。

大きなうねりはないけれど、小さなさざ波が心の水面をゆらすそんな小説。
戦後まもないロンドンでほそぼそと営まれる日常が、ひとりの独身女性を通し、軽妙なユーモアをまじえながら描かれていきます。
婚期をのがしつつある30過ぎのミルドレッドは、老齢貴婦人援護協会につとめながら教会活動にも熱心。家事はひと通りこなせるし、分別も協調性もある「よくできた女」の一人です。そんな彼女の家の上階に華やかな夫妻が、また、仲のよい牧師姉弟が暮す牧師館の上階にも美しい未亡人が越してきて、彼女はなかば首をつっこみ、なかば巻き込まれながら、平穏だった日々が少しずつかき乱されていくのです。
恋愛経験のすくない生真面目なミルドレッドが、気ままで自己主張もつよい既婚者たちと交わすとんちんかんな会話・・・お互いの勘違いがひっそりと愉快。平凡でありふれた生活のなかにこそ人生の面白みや悲哀はつまっているのですね。

結局のところ人生なんて、たいていの人間にとってはそんなものかもしれないとも思いました。悲劇的な大事件というよりは、ささいだけれども不愉快なことが起こったり、劇的な拒絶や歴史に残るような(あるいは小説のような)大恋愛というよりは、ちょっとした役にもたたない憧れに心をときめかせることのほうが多いのです。

地味で色気のない、微妙なお年頃のミルドレッドの心には、つねに諦念のようなものがくすぶっています。
妄想したり、ひがみっぽくなったり、ひらき直ったりしながら、周囲の厄介なおせっかいをかわし・・・そんなミルドレッドもついに結婚できるのか?は、読んでみてのお楽しみです。

(原題『EXCELLENT WOMEN』)
Author: ことり
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