<< 年間ベスト〔2010〕 絵本・詩集編*prev
『猫ばっか』 佐野 洋子 >>*next
 

『こころの旅』 須賀 敦子

きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする。行きたいところ、行くべきところぜんぶにじぶんが行っていないのは、あるいは行くのをあきらめたのは、すべて、じぶんの足にぴったりな靴をもたなかったせいなのだ、と。(プロローグ)


『須賀敦子全集』を底本に、あらたに編まれた贅沢なエッセイ集。
芦屋の生家でのエピソード、大好きな詩人ウンベルト・サバのこと、ミラノで出逢った最愛の夫との忘れえぬ思い出――・・・須賀さんが記憶の底で眠らせていた遠い日々が、淡々となめらかな筆致でつむぎ出されてゆきます。
家族や書物や詩人への愛が静謐な光を放ち、薄荷糖のような切なさでしみてくる彼女のなかに息づく情景。ほんの数ミリの行間にこめられた‘語られない思い’に心ざわめき、章の最後の一文がくくられたあとの空白の頁に哀しい余韻がひびく。
孤独と向き合い、ひそやかに迷い嘆きながら結晶させた須賀さんの文章が、いつもどこかなつかしいのはなぜかしら。目のまえを通りすぎる物語と足もとの重厚な歴史に導かれて、私にぴったりな「靴」をみつけたくなります。

Author: ことり
国内さ行(須賀 敦子) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -