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『いいなづけ―17世紀ミラーノの物語』(上・中・下) A・マンゾーニ、(訳)平川 祐弘

評価:
A・マンゾーニ
河出書房新社
¥ 1,050
(2006-05-03)

コーモ湖畔に住む若者レンツォは、いいなづけルチーアと結婚式を挙げようとするが、村の司祭が突然、式の立ち会いを拒む。臆病な司祭は、美しいルチーアに横恋慕した領主に、式を挙げれば命はないとおどされたのだ。二人は密かに村を脱出。恋人たちの苦難に満ちた逃避行の行く末は――ダンテ『神曲』と並ぶイタリア文学の最高峰。
読売文学賞・日本翻訳出版文化賞受賞作。

イタリアの国民的作家、アレッサンドロ・マンゾーニの代表作です。
ダンテの『神曲』とこの『いいなづけ』は、イタリアでは一家に一冊あって当たり前、といわれるそうで、現在でももっとも知名度の高い物語のひとつ。
イタリア好き(あっ、もちろん旅行レベルです。)の私は、もうずいぶん前からまだ見ぬこの小説世界に憧れていて、先日ようやく購入した本。

たったひとつの場面でも、その人のなにげないしぐさにこまやかな心の動きが集約され、美しい風景描写とあいまって映画のようなワンシーンをつくりあげていく、そんなところにマンゾーニという作家の‘技’をみた私です。
マンゾーニさんご本人が書きながら、匿名の著者の原稿を発見しそれに手を入れた、という体ですすんでいく物語は、時々自分自身の視点をとり入れつつ絶妙の距離感で語られるのがおもしろい。あと、19世紀に書かれた17世紀の物語である、というのも、イタリアの歴史にうとい私のような読者にも時代背景が説明的で分かりやすかった理由のひとつなのかも。(1840年のトスカーナ語版にそえられたものとおなじ、フランチェスコ・ゴニーンの美しい版画たちも!)
ロマン主義とカトリックの信念が色濃くただよい、勧善懲悪でどこか幼い頃に親しんだおとぎ話みたいな印象も。悪魔の申し子のような男が、ささいなことで改心して聖人のようになるところや、つつましやかで美しい娘・ルチーアが、神様にかけたいけない願をのちに後悔し恥じるところなど・・・、時代や宗教観のちがいがもたらす気持ちのズレを感じなかったといえば嘘になります。でも、イタリアの国民にずっとずっと大切に読まれてきた・・・そういうすぐれた‘英雄’的一冊になりえたぶぶんも、なんだかすごくよく分かるなぁって。
暴動、ペスト、戦乱・・・流転のストーリーが当時のイタリア社会を目の前によみがえらせ、さまざまな階級の人びとを生き生きと描いてみせてくれていて、豊穣な小説世界をたっぷりと堪能できました。

なお、このイタリアの古典が日本でそれほど知られていない理由として、翻訳の経緯があげられるのだそうです。
さいしょに『婚約者』というタイトルで日本に紹介したのはイタリア人牧師で、母語に訳したものでないため、精彩を欠き、読むに堪えない代物だったとか・・・。
平川さんの訳文はとてもなめらかで自然でした。遠い遠い異国の魅惑の大河小説を、こんなふうにすばらしい日本語にかえて届けてくれた翻訳者にも、心から感謝なのです。

(原題『I PROMESSI SPOSI』)
Author: ことり
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