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『少女外道』 皆川 博子

評価:
皆川博子
文藝春秋
¥ 1,950
(2010)

戦前の日本。裕福な家庭に育った久緒は、出入りの植木職人・葉次が苦悶する姿を見て「他人に悟られてはならない感覚」を覚える・・・。
苦しみや傷に惹かれてしまう「外道」の自分を自覚する女性画家の人生を描いた表題作のほか、火葬場で初めて出会った男女2人が突然、人の倫理を飛び越す「巻鶴トサカの一週間」など、彼岸と此岸、過去と未来を自在に往還する傑作短篇7篇を収録。

蓮の花の紋様があしらわれた、淡く優美な装丁。
柔らかな霧のヴェールにつつまれたほの昏い空間たち。息をつめ、ヴェールをそうっとかき分けるようにしてひとつひとつ大切に堪能しました。

連続した時間からふいにはずれてべつの時間に入り込む刹那・・・ふつりと意識が途切れるような心細さを感じます。
ひとつひとつ、そう長くはないお話のはずなのに、一歩立ち入ると思いがけず深くて、前後する時空間に眩暈すらして、そうして私はなんどもなんども帰り道を見失う。
・・・すばらしい小説というのは、帰り道を分からなくしてしまうのかしら。
なまあたたかな少女の息づかい、ひた隠しにした歪んだ感覚、規則正しく並べられた鉱石の破片、マシュマロみたいな蚕の感触――
白くかぼそい繭の糸をつむぐような、きめ細やかな描写が陰影を与え、行間から艶やかな色香を立ち上らせます。抑圧された時代の青春のきらめきが、甘く苦しくほのかな光を放っています。
「荒れているから、きれい」阿星は言い、そうして、「清浄と淫らって、一つのことだと思うわ」と、脈絡のない言葉を続けた。「わたし、好きな人がいるの」(『少女外道』)

これまで読んできた皆川さんの本のなかで、私はこの短篇集が一ばん好き。
『少女外道』、『巻鶏トサカの一週間』、『隠り沼の』、『有翼日輪』、『標本箱』、『アンティゴネ』、『祝祭』――にどともどれない場所に誘われる予感、ひややかに儚く密度の濃い世界。手元に置いて、なんどでも読み返したい一冊です。
Author: ことり
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