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『恋する魔女―ロマンティックで残酷な物語』 立原 えりか

うっとりと開いた、サンゴ色のくちびるが見える。黒い目は、しずかにうるんでいた。彼の腕が、ゆっくりと彼女を抱きしめ、彼のくちびるが、彼女のくちびるにつけられるのを、わたしは見た。それから、彼は、両腕に彼女をすくいあげて、うすむらさきの花のあいだに、そっと座らせた。扱いなれた、そのくせ、大切なものに対するやりかたで。

立原さんのつむぎ出す言葉たちは、お花をかたどったブルーやピンクの砂糖菓子みたい。可憐ではかなくてキラキラしていて・・・情景のすみずみまでが、おとぎの国にふうわり降り立ったように柔らかくきれいなのです。
ひとりの少女の一途な恋や乙女心がほろっと甘い表現で描かれ、そんななかにひそませた毒針――嫉妬心だとか、復讐心――が闇夜にするどく牙をむく・・・
心がぞくりとすくむような、哀しく無邪気な悪女の物語5篇。

ゆめの天国のような避暑地での恋、お砂糖による完全犯罪(『わたしのオルフェ』)、お手伝いさんとして日々頑張る女の子がふと起こしたいたずら心(『ことわざはお好き?』)、昔、わたしを捨てた男たちへの復讐劇(『日曜日よ さようなら』)、コケティッシュなわたくし口調で語られる5つの殺人(『趣味は殺人』)、さまざまな愛に悩む女性たちを救う魔法のくすり、妖しい誘惑(『魔女クラブ』)――

甘い毒薬のようなお話に、孤独な魂をうかび上がらせた宇野亜喜良さんの絵。じっと見つめているとすいこまれてしまいそうな虚ろな目をした少女たち。
これらの絵が楕円形に切り抜かれ、黒い台紙にぴらりぴらりと貼りつけてあるのもこの本の魅力のひとつ。まるで黒いドレスの胸元にかざられたブローチみたいな優雅さで、いまの時代にはまず考えられない贅沢なつくりがほどこされています。
古本屋さんで偶然みつけた1966年の初版本。
ロマンティックで残酷な物語、美しく濃やかな挿画、ちょっとレトロな佇まい・・・すべてが泣きたいくらいいとおしい、一生だいじにしたい宝物です。
Author: ことり
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