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『神を見た犬』 ブッツァーティ、(訳)関口 英子

評価:
ディーノ ブッツァーティ
光文社
¥ 821
(2007-04-12)

とつぜん出現した謎の犬におびえる人々を描く表題作。老いたる山賊の首領が手下にも見放され、たった一人で戦いを挑む「護送大隊襲撃」・・・。モノトーンの哀切きわまりない幻想と恐怖が横溢する、孤高の美の世界22篇。

イタリアの作家、ディーノ・ブッツァーティさんの短編集『コロンブレ ほか』から22編をえらび訳したもの。
『天地創造』にはじまり、『この世の終わり』で幕をおろすこの本は、まるで世界の深淵に生み落とされた悪夢のようです。どれも短いお話なのに、ひとつひとつの‘闇’が濃くて深くて、心をゾクゾクと震えさせるものばかり。
奔放な想像力で、時おり‘全能の神’や‘聖人’目線をとり入れながら、人間の小ささや愚かさ、そして無力さを闇の奥からつぎつぎにうかび上がらせてゆきます。
私がもっとも印象的だったお話は『七階』。

『七階』
三月のある朝、主人公ジュゼッペ・コルテは有名な療養所のある町に降り立つ。
彼の症状は初期のごく軽いものだったが、そこはその病気の専門病院で、人に勧められたのだ。
そこでは病気の程度によって各階がふりわけられ、最上階の七階はもっとも症状の軽い患者たち。病気が重くなるにつれ、下の階へと降ろされる。二階ではきわめて重症、一階ともなると一縷の望みもなくなってしまう。
コルテは七階に入院し、自分はすぐに退院だと思っているが、ふと起こした親切心で六階に降り、その後いろいろな理由をつけられて階を降りていくことに――・・・

人の力ではどうしようもない、得体の知れない大きな力に引っぱられる怖さ。
その恐怖は『コロンブレ』、『神を見た犬』、『呪われた背広』などのお話にもみられ、不思議だったり幻想的だったりするのに人間の本質をついてくる、そんな現実的でいごこちの悪いような感覚がつきまといます。
作者の破滅への憧れ、人間への皮肉めいたまなざしが、この本をたんなるブラックユーモアに終わらせない、質の高いものにしているように感じられました。

(原題『IL COLOMBRE E ALTRI RACCONTI』)
Author: ことり
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