<< 『かいじゅうたちのいるところ』〔再読〕 モーリス・センダック、(訳)じんぐう てるお*prev
『いろいろな人たち―チャペック・エッセイ集』 カレル・チャペック、(編訳)飯島 周 >>*next
 

『巨匠とマルガリータ』 ブルガーコフ、(訳)水野 忠夫

モスクワに降臨した悪魔の一味が引き起こす不可解な事件の数々。
20世紀最大のロシア語作家が描いた究極の奇想小説。

すばらしくおもしろい!です。
600ページほどもある大作ですが、なにが飛び出すのか分からないスリルいっぱいの展開は、目のまえに差し出されたびっくり箱をつぎつぎ開けていくような感覚に近くて、いっきに読み進められました。

ある春の暑い日の夕暮れどき、モスクワの公園で作家協会議長のベルリオーズと詩人のイワンがキリストの実在性について論じていると、第三の男が登場し、不吉な予言を言い放ちます。いわく、「(ベルリオーズの)首が切断されることでしょう!」
そして急に物語が切り替わり、キリストの刑死にまつわる物語(主人公は、キリストの処刑を回避しようとしてしきれなかったローマ総督ポンティウス・ピラトゥス)が挿入され、ふたたびお話がモスクワにもどったかと思ったらベルリオーズは予告どおりに首をちょん切られてしまう・・・!
ショッキングなできごとで読み手を翻弄する入り口を抜けると、そこからは町のアパートに棲みついた悪魔・ヴォランドの一味がモスクワじゅうを恐怖に陥れていく様子がつぎからつぎへと描かれてゆきます。黒魔術のショー、言葉を話す大きな黒猫、舞い落ちる偽のルーブル紙幣、裸の魔女、悪魔の大舞踏会・・・ファンタスティックな物語世界にすっかり魅了されてしまった私。
悪魔の圧倒的な存在感で‘世界’の土台ができあがり、物語の中盤、満を持して「巨匠」と「マルガリータ」が登場します。巨匠はポンティウス・ピラトゥスとキリストをめぐる物語の作者。傑作を書きながらも思想的な理由で文壇を追われた作家であり、マルガリータは彼を献身的に愛し、魔女になってまで救おうとする愛人です。後半は、そんな彼らがヴォランドたちの力を借りて――・・・

幻想と真実、過去と現在が自在に交差する、めくるめくおもしろさ。
けれども実はこの本、ソヴィエト批判の書とみなされ、著者の生前いちども出版されなかったのだそうです。酷評を受け、文壇を追われてしまった巨匠に、ブルガーコフさんは自分自身をかさね合わせたのかしら・・・。
必死の思いで書き上げた物語が闇に葬られることの無念、原稿が活字になることへの切なる願いが、悪魔に言わせた「原稿は燃えないものなのです」というひと言に強く強くそそがれているように感じて、胸がつまりました。時おり挟み込まれる「私につづけ、読者よ。」というゾクゾクするほどのうながしにも。
だって、読者あっての物語、ですもの。

燃やしてしまったはずの物語が灰のなかからよみがえるシーンに託された思い。
失意のブルガーコフさんが信じられたものがたったひとつだけあるとしたら、それは悪魔?一途な愛?それとも、――「物語」?

(原題『Мастер и Маргарита』)
Author: ことり
海外ハ行(その他) | permalink | - | -
 
 

スポンサーサイト

Author: スポンサードリンク
- | permalink | - | -