『細雪』〔再読〕 谷崎 潤一郎

評価:
谷崎 潤一郎
中央公論新社
¥ 1,205
(1983-01-10)

吐く息がしろく染まり、新年の寿ぎをふくんだ空気がきゅんと頬をさして。
お正月にきまってこの本を手にするようになって、4年が経ちました。

栄華をきわめたのもいまは昔、没落しつつある船場の商家の四姉妹(鶴子、幸子、雪子、妙子)の人生のありようが絢爛に縷々として描きだされる物語です。
はにかみやで気位が高く、あえかに美しい三女の雪子。彼女のなかなか纏まらない縁談ばなしを軸に、こまごましい姉妹たちのおんな心理を谷崎さんはふっくりと花やかに描いてみせる。

キュウキュウ鳴る帯、猫みたいな鼾、姉妹で足の爪を切りあう畳の間。
とりどりのお着物のように織られてゆく日々は、とりとめのない笑いや会話も、たいせつな人の呆気ない死も、いまは手の届かない箱のなか。時はうつろうもの、永遠に可憐な少女のままではいられない・・・。
幾筋とない線を引いて両側から入り乱れつつ点滅していた、幽鬼めいた蛍の火は、今も夢の中にまで尾を曳いているようで、目をつぶってもありありと見える。
阪神間のなつかしい風景が脳裡に立ち上り、たおやかな上方言葉にやはり祖母を思い出す・・・ここ数年のうちに妹が結婚し、祖母を亡くし、娘が小学生になった私はいつしか夕暮れのかえり道のような心地になっていました。はらはらと雪片をふらせる桜花の雲、夢幻のような蛍狩りの闇夜。つづいていくいまこの時と幸福な記憶・・・読み込むごとに少しずつその色をかえる、心愉しくやがてせつない物語。
甘やかな斜陽。時局の翳りと列車の汽笛、おっとりと上品で花のような姉妹たちのおもかげ。なぜかしら茫として、こんなにも儚い。

(高校時代より新潮文庫版で愛読してきましたが、こちらの中公文庫版は世相をうつしたすばらしい挿絵が随所にあって素敵です。本棚にしまうたび、この背表紙のむこうに閉じ込められた姉妹たちを想いじんわりとした気持ちになる私です)
Author: ことり
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年間ベスト〔2019〕 絵本・詩集編

2019年、41冊の絵本・詩集を読みました。
心にのこった10冊です。
■ 作家名50音順 ■ 再読本はふくみません。 → 一般書籍編

『サーベル夫人』 網代 幸介
『メルヘンティータイム』 宇野 亜喜良
『かがみとチコリ』 角野 栄子、(絵)及川 賢治
『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル、(絵)ドゥシャン・カーライ
『詩画集 プラテーロとわたし』 ファン・ラモン・ヒメネス、(絵)山本 容子
『くまのビーディーくん』 ドン=フリーマン
『オードリーのローマ』 オードリー・ヘプバーン
『ぼくのたび』 みやこし あきこ
『わたしと雨のふたりだけ』 ジョアン・ライダー、(絵)ドナルド・カリック
『ラストリゾート』 J.パトリック・ルイス、(絵)ロベルト・インノチェンティ


娘が小学校に入学した年。
絵本や物語を介しての会話もはずみました。母娘でおすすめ合いっこも。
Author: ことり
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年間ベスト〔2019〕 一般書籍編

2019年、183冊の本(一般書籍142冊+絵本・詩集41冊)を読みました。
心にのこった10冊です。
■ 作家名50音順 ■ 絵本、詩集、再読本はふくみません。 → 絵本・詩集編

『昏き目の暗殺者』 マーガレット・アトウッド
彼女たちの場合は』 江國 香織
旅ドロップ』 江國 香織
『女坂』 円地 文子
犬が星見た―ロシア旅行』 武田 百合子
『遠い水平線』 アントニオ・タブッキ
『モスクワの伯爵』 エイモア・トールズ
掃除婦のための手引き書』 ルシア・ベルリン
『白鯨』 メルヴィル
『ピクニック・アット・ハンギングロック』 ジョーン・リンジー


私にとって、ことしはなんといっても「旅」でした。
家族ででかけた3度めのイタリア。須賀敦子さんの足跡を辿る美しい思い出。
Author: ことり
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ブログお休み中の読了本〔2019〕

■ 『毒きのこに生まれてきたあたしのこと。』 堀 博美 (12/31)
■ 『レ・ミゼラブル』(上・下) ヴィクトル・ユゴー、(訳)永山 篤一 (12/30)
■ 『ホリー・ガーデン』〔再読〕 江國 香織 (12/24)
■ 『美しく生きるために』 村岡 花子 (12/23)
■ 『約束された移動』 小川 洋子 (12/22)
■ 『少女地獄』 夢野 久作 (12/19)
■ 『うつくしが丘の不幸の家』 町田 そのこ (12/19)
■ 『三つ編み』 レティシア・コロンバニ、(訳)齋藤 可津子 (12/18)
■ 『ふりむく』〔再読〕 江國 香織 (12/17)
■ 『倒立する塔の殺人』〔再読〕 皆川 博子 (12/17)
■ 『ユルスナールの靴』〔再読〕 須賀 敦子 (12/14)
■ 『デューク』〔再読〕 江國 香織、(絵)山本 容子 (12/11)
■ 『続 若草物語』(上・下) オルコット、(訳)吉田 勝江 (12/11)
■ 『クリスマスの思い出』〔再読〕 トルーマン・カポーティ、(訳)村上 春樹 (12/07)
■ 『詩画集 プラテーロとわたし』 J・R・ヒメネス、(絵)山本 容子、(訳)波多野 睦美 (12/05)
■ 『ずっとお城で暮らしてる』〔再読〕 シャーリイ・ジャクスン、(訳)市田 泉 (12/05)
■ 『ラブレター』 ヒグチ ユウコ (12/04)
■ 『夜の木』 シャーム、バーイー、ウルヴェーティ、(訳)青木 恵都 (12/04)
■ 『みずうみ 他四篇』〔再読〕 シュトルム、(訳)関 泰祐 (12/03)
■ 『希望の糸』 東野 圭吾 (12/02)
■ 『かがみとチコリ』 角野 栄子、(絵)及川 賢治 (12/01)
■ 『旅ドロップ』〔再読〕 江國 香織 (12/01)
■ 『Yの悲劇』 エラリー・クイーン、(訳)越前 敏弥 (11/30)
■ 『Xの悲劇』 エラリー・クイーン、(訳)越前 敏弥 (11/28)
■ 『皇帝と拳銃と』 倉知 淳 (11/25)
■ 『葬儀の日』 松浦 理英子 (11/23)
■ 『ナイルに死す』 アガサ・クリスティー、(訳)加島 祥造 (11/22)
■ 『月と菓子パン』〔再読〕 石田 千 (11/19)
■ 『綿菓子』〔再読〕 江國 香織 (11/18)
■ 『とむらい自動車』 倉知 淳 (11/18)
■ 『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』 内田 洋子 (11/14)
■ 『とるにたらないものもの』〔再読〕 江國 香織 (11/12)
■ 『ウエハースの椅子』〔再読〕 江國 香織 (11/12)
■ 『二つ、三つ、いいわすれたこと』 ジョイス・キャロル・オーツ、(訳)神戸 万知 (11/11)
■ 『あきのセーターをつくりに』 石井 睦美、(絵)布川 愛子 (11/10)
■ 『おさんぽ』〔再読〕 江國 香織 (11/10)
■ 『赤い長靴』〔再読〕 江國 香織 (11/07)
■ 『ひみつのしつもん』 岸本 佐知子 (11/04)
■ 『素数たちの孤独』 パオロ・ジョルダーノ、(訳)飯田 亮介 (11/03)
■ 『10月はたそがれの国』 レイ・ブラッドベリ、(訳)宇野 利泰 (10/31)
■ 『小箱』 小川 洋子 (10/29)
■ 『歪み真珠』〔再読〕 山尾 悠子 (10/25)
■ 『愛しいひとにさよならを言う』 石井 睦美 (10/22)
■ 『きのこのなぐさめ』 ロン・リット・ウーン、(訳)枇谷 玲子、中村 冬美 (10/20)
■ 『オードリーのローマ』 オードリー・ヘプバーン (10/20)
■ 『抱擁、あるいはライスには塩を』(上・下)〔再読〕 江國 香織 (10/20)
■ 『流しのしたの骨』〔再読〕 江國 香織 (10/13)
■ 『葉書でドナルド・エヴァンズに』〔再読〕 平出 隆 (10/12)
■ 『昏き目の暗殺者』(上・下) マーガレット・アトウッド、(訳)鴻巣 友季子 (10/11)
■ 『10かいだての おひめさまの おしろ』 のはな はるか (10/06)
■ 『トリック』 エマヌエル・ベルクマン、(訳)浅井 晶子 (10/05)
■ 『猫と藤田嗣治』 浦島 茂世 (10/03)
■ 『犬とハモニカ』〔再読〕 江國 香織 (10/02)
■ 『モデラート・カンタービレ』 デュラス、(訳)田中 倫郎 (10/01)
■ 『わたしのいるところ』 ジュンパ・ラヒリ、(訳)中嶋 浩郎 (09/30)
■ 『蝶を飼う男』 シャルル・バルバラ、(訳)亀谷 乃里 (09/28)
■ 『散歩道から』 庄野 潤三 (09/27)
■ 『朝ごとの花束―小さな童話集』 立原 えりか (09/24)
■ 『命売ります』 三島 由紀夫 (09/23)
■ 『神様の暇つぶし』 千早 茜 (09/19)
■ 『遠い朝の本たち』〔再読〕 須賀 敦子 (09/17)
■ 『きのこ文学名作選』〔再読〕 (編)飯沢 耕太郎 (09/16)
■ 『掃除婦のための手引き書』 ルシア・ベルリン、(訳)岸本 佐知子 (09/14)
■ 『千年の祈り』 イーユン・リー、(訳)篠森 ゆりこ (09/12)
■ 『沙羅乙女』 獅子 文六 (09/10)
■ 『すみれの花の砂糖づけ』〔再読〕 江國 香織 (09/07)
■ 『ケイトが恐れるすべて』 ピーター・スワンソン、(訳)務台 夏子 (09/06)
■ 『絹の瞳』 サガン、(訳)朝吹 登水子 (09/02)
■ 『小鳥たち』 山尾 悠子 (09/01)
■ 『幻獣遁走曲』 倉知 淳 (08/31)
■ 『TUGUMI』〔再読〕 吉本 ばなな (08/26)
■ 『犬が星見た―ロシア旅行』 武田 百合子 (08/24)
■ 『ぼくのたび』 みやこし あきこ (08/23)
■ 『わたしと雨のふたりだけ』 ジョアン・ライダー、(絵)ドナルド・カリック、(訳)田中 とき子 (08/22)
■ 『予告された殺人の記録』 G・ガルシア=マルケス、(訳)野谷 文昭 (08/20)
■ 『レベッカ』(上・下)〔再読〕 デュ・モーリア、(訳)茅野 美ど里 (08/18)
■ 『悲しみよ こんにちは』〔再読〕 サガン、(訳)朝吹 登水子 (08/16)
■ 『いばらひめ』〔再読〕 エロール・ル・カイン、(訳)やがわ すみこ (08/15)
■ 『帰れない山』 パオロ・コニェッティ、(訳)関口 英子 (08/13)
■ 『椿宿の辺りに』 梨木 香歩 (08/10)
■ 『白鯨』(上・下) メルヴィル、(訳)千石 英世 (08/06)
■ 『ときどき旅に出るカフェ』 近藤 史恵 (08/02)
■ 『旅ドロップ』 江國 香織 (08/01)
■ 『モスクワの伯爵』 エイモア・トールズ、(訳)宇佐川 晶子 (07/31)
■ 『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』 アントニオ・タブッキ、(訳)古賀 弘人 (07/25)
■ 『受胎告知』〔再読〕 矢川 澄子 (07/23)
■ 『時のかけらたち』〔再読〕 須賀 敦子 (07/22)
■ 『すきまのおともだちたち』〔再読〕 江國 香織 (07/22)
■ 『愛蔵版 冷静と情熱のあいだ』〔再読〕 江國 香織、辻 仁成 (07/19)
■ 『ウエハースの椅子』〔再読〕 江國 香織 (07/15)
■ 『ばらいろのかさ』 アメリー・カロ、(絵)ジュヌヴィエーヴ・ゴドブー、(訳)野坂 悦子 (07/07)
■ 『アイスの旅』 甲斐 みのり (07/07)
■ 『あとは切手を、一枚貼るだけ』 小川 洋子、堀江 敏幸 (07/07)
■ 『花の楽しみ方ブック』 浦沢 美奈 (07/02)
■ 『遠い水平線』 アントニオ・タブッキ、(訳)須賀 敦子 (06/28)
■ 『チョコレート・ガール探偵譚』 吉田 篤弘 (06/25)
■ 『小説という毒を浴びる―桜庭一樹書評集』 桜庭 一樹 (06/24)
■ 『美しいフィレンツェとトスカーナの小さな街へ』 奥村 千穂 (06/23)
■ 『ラストリゾート』 J.パトリック・ルイス、(絵)ロベルト・インノチェンティ、(訳)青山 南 (06/21)
■ 『いつも心にイタリアを』 アレッサンドロ・ジェレヴィーニ (06/19)
■ 『くまのビーディーくん』 ドン=フリーマン、(訳)まつおか きょうこ (06/18)
■ 『むらさきのスカートの女』 今村 夏子 (06/18)
■ 『月と篝火』 パヴェーゼ、(訳)河島 英昭 (06/18)
■ 『霧のむこうに住みたい』〔再読〕 須賀 敦子 (06/16)
■ 『眺めのいい部屋』 E.M.フォースター、(訳)西崎 憲、中島 朋子 (06/15)
■ 『夜の声』 ナタリーア・ギンツブルグ、(訳)望月 紀子 (06/13)
■ 『ジス・イズ・ローマ』〔再読〕 ミロスラフ・サセック、(訳)松浦 弥太郎 (06/09)
■ 『マドレーヌとローマのねこたち』 ジョン・ベーメルマンス・マルシアーノ、(訳)江國 香織 (06/08)
■ 『人生を変えた本と本屋さん』 ジェーン・マウント、(訳)清水 玲奈 (06/08)
■ 『そしてミランダを殺す』 ピーター・スワンソン、(訳)務台 夏子 (06/07)
■ 『サーベルふじん』 網代 幸介 (05/30)
■ 『海の乙女の惜しみなさ』 デニス・ジョンソン、(訳)藤井 光 (05/26)
■ 『ふしぎの国のアリス』〔再読〕 キャロル、(訳)矢崎 節夫 (05/26)
■ 『冷静と情熱のあいだ―Rosso』〔再読〕 江國 香織 (05/25)
■ 『20世紀ラテンアメリカ短篇選』 (編訳)野谷 文昭 (05/20)
■ 『いつか、ずっと昔』〔再読〕 江國 香織、(絵)荒井 良二 (05/16)
■ 『ジャミパン』〔再読〕 江國 香織、(絵)宇野 亜喜良 (05/15)
■ 『すべての愛しい幽霊たち』 アリソン・マクラウド、(訳)盪 祥子 (05/15)
■ 『神様のボート』〔再読〕 江國 香織 (05/13)
■ 『やわらかなレタス』〔再読〕 江國 香織 (05/09)
■ 『エイハブ船長と白いクジラ』 マヌエル・マルソル、(訳)美馬 しょうこ (05/08)
■ 『刺青・秘密』 谷崎 潤一郎 (05/08)
■ 『トリエステの坂道』〔再読〕 須賀 敦子 (05/05)
■ 『彼女たちの場合は』 江國 香織 (05/03)
■ 『月とコーヒー』 吉田 篤弘 (04/29)
■ 『ジバンシィとオードリー』 フィリップ・ホプマン、(訳)野坂 悦子 (04/27)
■ 『ミッテランの帽子』 アントワーヌ・ローラン、(訳)吉田 洋之 (04/21)
■ 『母の遺産―新聞小説』 水村 美苗 (04/19)
■ 『ラファエル前派―ヴィクトリア時代の幻視者たち』 ローランス・デ・カール、(訳)村上 尚子 (04/18)
■ 『夏みかん酸つぱしいまさら純潔など』 鈴木 しづ子 (04/18)
■ 『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル、(絵)リスベート・ツヴェルガー、(訳)石井 睦美 (04/16)
■ 『須賀敦子全集 別巻』 須賀 敦子 (04/12)
■ 『モンテロッソのピンクの壁』〔再読〕 江國 香織、(絵)荒井 良二 (04/10)
■ 『アンディ・ウォーホルのヘビのおはなし』 アンディ・ウォーホル、(訳)野中 邦子 (04/06)
■ 『ホテルカクタス』〔再読〕 江國 香織 (04/06)
■ 『言葉人形』 ジェフリー・フォード、(訳)谷垣 暁美 (04/01)
■ 『時計は三時に止まる』 クレイグ・ライス、(訳)小鷹 信光 (03/30)
■ 『Presents』〔再読〕 角田 光代 (03/29)
■ 『落下する夕方』〔再読〕 江國 香織 (03/26)
■ 『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル、(絵)ドゥシャン・カーライ、(訳)矢川 澄子 (03/26)
■ 『ちよう、はたり』 志村 ふくみ (03/22)
■ 『すみれ屋敷の罪人』 降田 天 (03/18)
■ 『ピクニック・アット・ハンギングロック』 ジョーン・リンジー、(訳)井上 里 (03/09)
■ 『美しき瞬間』 岡上 淑子 (03/08)
■ 『アナイス・ニンのパリ・ニューヨーク』 矢口 裕子 (03/05)
■ 『メルヘンティータイム』 宇野 亜喜良 (03/03)
■ 『あのねこは』 石津ちひろ、(絵)宇野 亞喜良 (03/02)
■ 『女坂』 円地 文子 (02/25)
■ 『影を歩く』 小池 昌代 (02/23)
■ 『魔術―幻想ミステリ傑作集』 芥川 龍之介 (02/23)
■ 『カササギ殺人事件』(上・下) アンソニー・ホロヴィッツ、(訳)山田 蘭 (02/22)
■ 『鳥籠の小娘』 千早 茜、(絵)宇野 亞喜良 (02/18)
■ 『日曜の夜は出たくない』 倉知 淳 (02/16)
■ 『傍らにいた人』 堀江 敏幸 (02/14)
■ 『ねことテルと王女さま』 クライド・ロバート・ブラ、(絵)レナード・ワイスガード、(訳)あんどう のりこ (02/14)
■ 『熊とにんげん』〔再読〕 ライナー・チムニク、(訳)上田真而子 (02/12)
■ 『心変わり』 ミシェル・ビュトール、(訳)清水 徹 (02/11)
■ 『バレエシューズ』 ノエル・ストレトフィールド、(訳)朽木 祥 (02/08)
■ 『増補 夢の遠近法―初期作品選』 山尾 悠子 (02/05)
■ 『真昼なのに昏い部屋』〔再読〕 江國 香織 (02/03)
■ 『エイリア綺譚集』 高原 英理 (02/02)
■ 『不気味な物語』 ステファン・グラビンスキ、(訳)芝田 文乃 (02/01)
■ 『仏蘭西おもちゃ箱』〔再読〕 こみね ゆら (02/01)
■ 『クレヨンサーカスがやってきた』〔再読〕 鴨居 羊子 (01/24)
■ 『おはん』 宇野 千代 (01/23)
■ 『一千一秒物語』 稲垣 足穂 (01/22)
■ 『大司教に死来る』 ウィラ・キャザー、(訳)須賀 敦子 (01/19)
■ 『女生徒』 太宰 治、(絵)今井 キラ (01/19)
■ 『夢のウラド』 F・マクラウド、W・シャープ、(訳)中野 善夫 (01/16)
■ 『不思議の国の少女たち』 ショーニン・マグワイア、(訳)原島 文世 (01/12)
■ 『美しい街』〔再読〕 尾形 亀之助 (01/11)
■ 『バレエ名作絵本 眠れる森の美女』 石津 ちひろ、(絵)網中 いづる (01/10)
■ 『あやかしの裏通り』 ポール・アルテ、(訳)平岡 敦 (01/10)
■ 『過ぎ行く風はみどり色』 倉知 淳 (01/06)
■ 『細雪』〔再読〕 谷崎 潤一郎 (01/04)
Author: ことり
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『10かいだての おひめさまの おしろ』 のはな はるか

おひめさまに憧れている女の子のもとに、
お城からパーティーの招待状がとどきました。
「あなたを おしろの パーティーに ごしょうたいいたします。
すてきな おひめさまに なって
おしろの いちばん うえまで きてください」
テディベアに案内された女の子が、10階建てのお城に入ると・・・。

観音頁に広がる豪華最上階フロアは圧巻! 華やかなアイテム選びが楽しい、夢が広がる絵本です。


のはなはるかさんのワークショップ&サイン会に出かけました。
サイン本です↓ 娘あて。(おひめさまの絵がスペシャル)
Author: ことり
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『掃除婦のための手引き書』 ルシア・ベルリン、(訳)岸本 佐知子

毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための手引き書」)。夜明けにふるえる足で酒を買いに行くアルコール依存症のシングルマザー(「どうにもならない」)。刑務所で囚人たちに創作を教える女性教師(「さあ土曜日だ」)。
自身の人生に根ざして紡ぎ出された奇跡の文学。死後十年を経て「再発見」された作家のはじめての邦訳作品集。

心をぎゅっと掴んで揺さぶられ、引きこまれては解き放たれる24の物語。
感電しそうに赤裸々で、感覚的にうそがない文章――どことなくジャニス・ジョプリンの歌声を思わせる哀しさと逞しさ。

ターはバークレーのゴミ捨て場に似ていた。あのゴミ捨て場に行くバスがあればいいのに。ニューメキシコが恋しくなると、二人でよくあそこに行った。殺風景で吹きっさらしで、カモメが砂漠のヨタカみたいに舞っている。どっちを向いても、上を見ても、空がある。ゴミのトラックがもうもうと土埃をあげてごとごと過ぎる。灰色の恐竜だ。

知的なのにはすっぱで、尖っているのにやさしくて、語り手たちの一人一人がまるで孤独で怖がりなはりねずみみたいで泣きたくなります。みじかいセンテンスがふしぎなくらい沁みてきて、胸がドキドキする。煙草と香水、薬と経血とアルコール。乾いた土埃、サンゴ色の空、コンクリートの病室――甘美な幸せと死の気配。
コインランドリーやバスですれ違うだけの人たちも、暗黒の女学院で出逢ったシスターも、かつて愛した夫たちも・・・ノスタルジーに溺れすぎず寧ろクールに書きつけられ、絶望と親しくさえあるかのよう。
ナイフがひゅんっと唸って芝生に刺さる一人遊び。こんなにも鮮やかな、孤独の音。

みずからの壮絶な人生をしぼり出し、文字にすることで浄化してゆく・・・ある種の凄みを感じます。
あの人は誰ひとり不幸にできなかったと言い放つママ、死をまえにしてもう二度とロバを見られないと言って泣く妹、歪んだ背骨とともに銀のハートが写るレントゲン写真・・・。生々しくて切なくてけだるくて、この痛々しくも詩情あふれる冷ややかな熱にまだもう少しうかされていたいです。

(原題『A Manual for Cleaning Women』)
Author: ことり
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『犬が星見た―ロシア旅行』 武田 百合子

生涯最後の旅と予感している夫・武田泰淳とその友人、竹内好とのロシア旅行。星に驚く犬のような心と天真爛漫な目を以て、旅中の出来事、風物、そして二人の文学者の旅の肖像を、克明に、伸びやかに綴った紀行。読売文学賞受賞作。

なんてまっすぐなんだろう。
恥ずかしがらず、飾りたてるすべを知らない真正直な言葉たち。
ロシア女の便所の話も、大量のげろの話も、ここでは美しい宮殿や彫像や噴水と同列に記されます。彼女が見たまま聴いたままのことだから。百合子さんは開けっぴろげで純粋で、それからとても繊細な――刹那的な人。
「百合子。面白いか? 嬉しいか?」
「面白くも嬉しくもまだない。だんだん嬉しくなると思う」
昭和44年。旅の始まりの夫妻のみずみずしい会話が呼び水となるように、40年来の友人・竹内さんや、「ロッシャはたいした国や。」が口ぐせの銭高老人(大阪の土建会社の会長さん)を交えすすんでゆく異国道中。事細かに綴られる、もの珍しい食事のメニュー(とその値段)、煙草、ぶどう酒・・・話し声や外国語のざわめき、香りまでこちらに届いてきそう。
ある時ふと大きな忘れもの――東京に置いてきた「時間」――に気づき、「旅をしている間は死んでいるみたいだ。死んだふりをしているみたいだ。」と書く百合子さん。こんなふうにふと心に切り込んでくる描写がたくさん転がっています。

六月二十二日 トビリシ
いい天気。泣きたいばかりのいい天気。
存分に泣け、と天の方から声がすれば、私は眼の下に唾をつけ、ひッと嘘泣きするだろう。

チボリでは、いくつもの睡蓮の花のかたちをした噴水に、アメリカ人らしい旅行者の一団がやってきたのを夫と見ながら・・・、
「旅行者って、すぐわかるね。さびしそうに見えるね」
「当り前さ。生活がないんだから」
わらわらと散らばって逍遥している旅行者たちは、水をへだてた向う側の時間のない世界で漂っているように見える。私たちもあんな風に見えるのだろうか。

旅の終わり、ポルノ雑誌を置いて帰ると言う竹内さんとの賑やかなひと悶着があったあと、夫婦の部屋の窓越しに見る光景が淋しく胸にしみました。「いま見えていることは、年とってからも覚えていそうな気がする。」――白い犬とにわとりと人が一人、佇む姿は、本をとじたいま、百合子さんとご主人と竹内さんにかさなり合うように私のなかにのこっています。そして、あとがき。なんて見事なあとがき・・・心が止まってしまう。ほんのみじかいあとがき。でも泣けて泣けて、しょうがない。
私だけ、いつ、どこで途中下車したのだろう。
目を瞑れば、百合子さんが愛しい皆の乗ったあのロシア帰りの‘宇宙船’に合流したようすがうかんできます。楽しげに酒盛りしているところを想像しては、ほろり泣き笑いの私です。
Author: ことり
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『旅ドロップ』 江國 香織

評価:
江國 香織
小学館
¥ 1,540
(2019-07-01)

江國さんの旅の記憶のしずくたち。エッセイ集です。
この夏のイタリアの旅の余韻がなかなか消えない・・・そんな時にひらいた本。

一ばん好きなのは『はみだす空気』でしょうか。
これは江國さんのご自宅の海外チャンネルを聴けるラジオのことが書かれています。融通無碍に部屋じゅうを漂う‘音’・・・夕方の東京に居ながらにして、たとえばニューヨークの朝の空気に満たされてしまう旅さながらの臨場感について。
あと、消えてしまった画廊の話やブエノスアイレスの切ないのら犬たち、お母様の言葉「ああ、よかった、家がまだあって」――帰る家があることの嬉しさへの共感も忘れがたいです。(『過ぎゆくもの』でなんども読んでいる若き日の女二人旅の顛末も。)

7月。私は家族で赴いたローマの街を、暮すように旅してきました。
5泊したホテルの最上階のテラスレストランで、歴史の息づく街並みを見下ろしながらすごした幾つもの朝食の時間。そこで録ってきた音源をここで流せば、あの爽やかで優雅なひととき、朝日にきらめくローマの空気がまたたくまに「はみだして」きます。かろやかに控えめな音楽、食器とカトラリーのこすれる音、うみどりと燕たちの鳴き声・・・。すぐそばで夫が飲むコーヒーの匂いや、くすくすと楽しげな娘の気配までも感じられる気がして、たちまちあの天空のテラスへとつれ戻される。
江國さんの海外ラジオのエッセイを読みながら、そんな自分をかさねていた私です。

旅と本、ってふしぎ。
今回のローマゆきでは、行き帰りの飛行機で『時のかけらたち』を読み、フィレンツェにむかう列車のなかで『冷静と情熱のあいだ』を読みました。ナヴォーナ広場では『すきまのおともだちたち』を片手にレモンのグラニータをたべたし、帰国後『受胎告知』や『ベアト・アンジェリコの翼あるもの』(アントニオ・タブッキ)をひもといては、美しかったサン・マルコ修道院のフレスコ画をうっとりと思いうかべたりしました。
読書が旅と似ているのは、どちらも日常からつかのま切り離されるから。
切り離された時間はこことは違う時間がながれる。旅と本がかさなると、物語にその土地の空気や記憶がまざり、またべつの物語がうまれる。忘れられなくなる。
帰ってこられた愛しい我が家で、だけど私はいまだにここに‘帰りきれず’ふわふわと夢まじりの現実を生きてる・・・。私だけの旅の記憶のしずくを抱いて。


江國香織さんのトークショウに出かけました。
サイン本です↓ <2019年8月追記>
Author: ことり
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『彼女たちの場合は』 江國 香織

評価:
江國 香織
集英社
¥ 1,980
(2019-05-02)

「これは家出ではないので心配しないでね」
14歳と17歳。ニューヨークの郊外に住むいとこ同士の礼那と逸佳は、ある秋の日、二人きりで“アメリカを見る”旅に出た。
美しい風景と愛すべき人々、そして「あの日の自分」に出逢える、江國香織二年ぶりの長編小説。

読書はそもそも旅に似ているけれど、この物語は旅そのものでした。
ぱたん、――本を閉じたとき、2人の「ただいま」と彼女たちがトランクを閉じる乾いた音が聴こえた気がした。

夜の鉄道、慣れないヒッチハイク、その土地土地の食べものの味。
いきあたりばったりの道行き。見知らぬ町の喧噪と空の青さ。
旅先で出会ったすべての人たち――愛すべき人も、そうでない人も。
思春期のたいくつな日常から離れ切りとられた時間のなかで、その時に見た風景、抱いた感情はそれはもう特別で、もちろん個人的なものだ。それらをその空間ごと共有するれーな(礼那)といつか(逸佳)。

無駄な約束だったね――
鈴をころがすような、れーなの声がする。
「たとえばこの朝がどんなにすばらしいかっていうことはさ、いまここにいない誰かにあとから話しても、絶対わかってもらえないと思わない?」

薔薇の咲きそめた実家のイングリッシュ・ガーデンの、新緑のベンチで私はこの本を読みました。
雨あがりの土の匂い、柔らかな木漏れ日、ちいさな噴水からこぼれる水音・・・。白い頁をひらりとかすめる蝶ちょの翳、母屋から風にのってくる娘の笑い声、日ごと咲き誇る花々の甘い香り・・・。
この先なんど読み返しても、花園にこもって読んだあの旅の空気感は一度きり、もう戻らない。‘物語’に出逢う前と後。記憶のなかにとどまる閉じられた風景。れーなといつかがまたおなじ町を訪れても、おなじ体験は二度とできないように。

平成から令和へ。旅の列車にひととき乗り合わせたようなそんな心持ちで、少女たちの寄る辺ない――けれど未来の彼女たちを丈夫にしたに違いない――アメリカ横断を見守っていたうつろいの数日間。
このあとにつづくいつかの7年に思いを馳せる。れーなはうさぎのぬいぐるみを見るたびにこの旅を思い出し、いつかの声を聞きたくなることでしょう。
そして私はこの本を手にとるたび、きらめく初夏のガーデンを思い、令和の幕開けの瞬間を思うの。光のつまったトランクのふたを開けて。
Author: ことり
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年間ベスト〔2018〕 絵本・詩集編

2018年、50冊の絵本・詩集を読みました。
心にのこった10冊です。
■ 作家名50音順 ■ 再読本はふくみません。 → 一般書籍編

はるのワンピースをつくりに』 石井 睦美、(絵)布川 愛子
『恋の迷宮』 宇野 亞喜良
『ジュエルキャット』 おかだ なおこ
『美しい街』 尾形 亀之助
『女一匹』 佐野 洋子、広瀬 弦
はなびのひ』 たしろ ちさと
イギリス 野の花図鑑』 ヘンリー・テリー
『せかいいちのいちご』 林 木林、(絵)庄野 ナホコ
『ふしぎの国のアリス』 松本 かつぢ
『ふたごのうさぎ』 ダフネ・ロウター


ふわり、お菓子の国のような絵本世界へ娘とおでかけする幸せ。
のはなはるかさん、布川愛子さん、たしろちさとさんにお会いできました。
Author: ことり
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